2012年12月30日日曜日

Best of 2012 - その他


   ベスト・グルメ・スポット(グルメ・レポーターとして未熟のため順不同)

デンマークブロート 高円寺店

麺屋 はやしまる

南欧食堂

天ぷら 天すけ

銀座 いし井

すしざんまい 築地店

あまね

スカンディア

Eggs'n Things 原宿店

中華麺酒家 彩華

   ベスト・買い物




Apple iPad

Nikon デジタル一眼カメラ Nikon 1


無印良品 超高密度ポケットコイルマットレス

Ryan Mcginleyの写真集 



   ベスト・映画


「ミッドナイト・イン・パリ」


「私が、生きる肌」

Best of 2012 #1 - Robert Glasper Experiment "Black Radio"


年はいつになくジェイ・ディラの名前を耳にした1年だった。それは単にヒップホップが盛り上がったからというだけではなく、<ブレインフィーダー>といったジャンルをクロスオーバーするレーベルからのトリビュートや、宅録の普及に伴うプロデューサーやサンプラーに対する注目の高まりがあるだろう。そう、6年前に他界したディラがプロデュースした「ザ・ライト」やスラム・ヴィレッジの「フォール・イン・ラブ」といった名曲たちは、今やヒップホップという垣根を越えて多くの人々に愛されている。ザ・ルーツのドラマー=クエストラブを筆頭に、彼がMPCから編み出した人間臭いサウンドを模倣するミュージシャンは数知れない。

 そんなディラの継承者の中でも、絶滅寸前のジャズに新しい命を吹き込むことに成功したのがピアニストのロバート・グラスパーだ。クリス・デイヴ(ドラム)とデリック・ホッジ(ベース)という強力なリズム隊が軸に置かれた今作は、彼がヒップホップを理解する数少ないジャズ・ミュージシャンであることが証明された傑作だ。例えばグラスパーのピアノフレーズひとつを取ってみても、それはコードというよりはリフとして機能している。あるいは多彩なゲスト・ボーカルの起用も、演奏はラップのための下敷きであるというヒップホップ文化の踏襲であろう。エリカ・バドゥが参加した“Afro Blue”やサックス・ソロが白眉な“Cherish the Day”などネオ・ソウル寄りの前半も素晴らしいが、メンバーのスキルの高さを味わえるのは、ヒップホップへの傾倒ぶりが発揮される後半だ。本作のリミックス盤に収録されたディラのトリビュートソング“Dilladude #2”も最高だった。


Best of 2012 #2 - Tyme. × Tujiko “GYU”

ントツで再生回数の多かった一枚。ツジコ・ノリコのソロ作品の多くは硝子の破片を拾い集めたような繊細なIDMであり、「空間」よりも個々人の「脳内」に向けられていた音楽だった。しかし、ソニーなどのサウンドデザイナーを務めるTymeとの共同で作り上げられた本作は、ラップトップでファイルをいじっている若者とは格が違うと言わんばかりの繊細さとダイナミックさを合わせ持ったダンス・ミュージックに仕上がった。どの曲も素晴らしいが、全体を覆うシンセが終盤から激しく動くベースと絡み合う“ハート凍らせてはハイライトの1つ。

 音に限った話ではない。「ドアを開けて/ギュッと引き締まって歩き出す」という言葉から始まるリード・トラック“あけて、あけてが象徴するように、かつてないほどの開放感で満ちあふれているところが特徴的だ。昨年後半に制作されたという本作からは、全体的に冬っぽい雰囲気が漂っており、開放と閉塞(=Tyme.×Tujikoなのだろう)の対比がなんともロマンチック。端々から2人の純粋な愛がひしひしと伝わり、思わず「ギュッ」としたくなる名盤だ。



2012年12月29日土曜日

Best of 2012 #3 - Traxman "Da Mind of Traxman"



っとも革新的だった一枚。ベテランプロデューサーとしては既に名の知れているトラックスマンが、デビュー作となるこのアルバムで果たした役割は2つある。ひとつはシカゴの路上で生まれたフットワークという音楽を世界中のリスナーの耳に届けたという快挙。もうひとつ、そしてより重要だと思うのは、フットワークをもう一段上のレベルに持って行ったことだ。冒頭“Footworkin On Air”でフットワークから「重力」を抜くという離れ業をやってのけたあとは、たたみかけるようにジャズ/ハードロック/ソウル/ポップスを横断。乾いたビートと瞬間的な音の連鎖で構成される独特のダンス・ミュージック(日本人は踊れないのでご注意)は、不作だったダブステップの存在を忘れさせるほどの輝きを放っていた。31年というDJ歴も伊達ではなく、18曲というボリュームを違和感なくつないでいる。


2012年12月23日日曜日

Best of 2012 - Best Tracks


1.  Todd Terje “Inspector Norse”



2.  LITE “bond”



3.  f(x) “Hot Summer”



4.  Purity Ring “Saltkin”



5.  Lianne La Havas “Lost & Found”



6.  Ariel Pink “Only In My Dreams”



7.  frank ocean “Pyramids”



8.  John Talabot “When The Past Was Present”



9.  THA BLUE HERB “Lost in Music Business”


10. Santigold “Disparate Youth”



年のキーワードは「ダンス」だったのではないでしょうか?ということで、踊れる曲を中心にセレクト(ベストアルバムに入れたアーティストの曲は除いています)。それ以外では、全く新しいベクトルに向かい絶滅状態のポストロックを救った【2】、今年最高のR&Bバラード【5】、歳を取ってもナンバー1にこだわり続ける心意気が◎な【9】などが良かったです。

Best of 2012 #4 - Fiona Apple “The Idler Wheel Is Wiser Than the Driver of the Screw and Whipping Cords Will Serve You More Than Ropes Will Ever Do”

れだけエレクトロニカが流行する中で、この極めてアコースティックかつミニマルな作品が多くの音楽メディアの年間ベストに入ったあたりは流石だと言わざるを得ないだろう。実際、評判を抜きにしてもフィオナ・アップルによる7年振りの新作は格別だった。こっちをみろ!(Daredevil)あなたを見て自分を切った(Valentine) ・・・一台のピアノと最低限のパーカッションに乗せて放出されるむき出しの感情は、あるときはマグマのような怒りで、あるときは奈落の底から聞こえてくるような絶望感で聴き手の心を四方八方に揺さぶる。声にひたすら圧倒されたあとは、各曲の緻密な構成に目を向けることも可能だろう。時折導入される弦楽器、ノイズ、手拍子、子供の声・・・などはウィルコの名作『Yankee Hotel Foxtrot』に勝るとも劣らない実験性で、聴く度に新たな発見がある。デビューから早16年。アメリカ屈指のアウトサイダーによる末恐ろしいマスターピースの誕生だ。

Best of 2012 #5 - Holy Other "Held"


ブステップの延長として昨年「ウィッチ・ハウス」というサブ・ジャンルが生まれたわけだが、ホーリー・アザーの新作にスクリームやブリアルの面影はない。むしろ、『ヘルド』の最大のポイントは重低音とリズムが抑制されている点にある。全体を覆う霧のようなリバーブや、突如訪れるテンポのスローダウンといった手法からは、過去のスタイルを踏襲せず独自のスタイルを一から積み上げていこうという強い意志が読み取れる。オルガンとトライアングルの組み合わせが絶妙な“Tense Past”やボーカル・チョップの鋭い“Impouring”など攻撃的な前半も素晴らしいが、亡霊によるピアノバラードのような展開から淡々と最期を迎えるラスト2曲は圧巻。完全に独自の世界観を築き上げることに成功している。過去の音源の断片を組み合わせるという2000年代的なトレンドがようやく終わりつつある。その兆しを『ヘルド』から読み取ることができるだろう。

2012年12月22日土曜日

Best of 2012 #6 - Jens Lekman "I Know What Love Isn’t"


「愛が何でないかは知っている」・・・なんというひねくれたタイトル。まぁ、デビュー作品が「君の犬になりたいと言ったとき」だからサプライズはないか(苦笑)。<シナトラは上手くやっていたのだろう>(Erika America)、<バンドは嫌いだ/いつも手をつないでいるカップルでごった返している(I Know What Love Isn’t)など、自分がイメージしていた「アーティスト」と現実とのギャップを赤裸々に吐露するシュールな歌詞が素晴らしい(それで人気を得ているのだから、なおさら皮肉な話だ)。音楽的にはフラメンコからワルツまで幅広いジャンルを横断しており、完成度は本当に高い・・・が、よく聴くとチープという徹底したナイーブさ。アリエル・ピンクのあまりに完璧すぎる新作を中々聴く気になれず、歌モノを聴きたくなったときにはこの盤をかけた。

Best of 2012 #7 - Ogre You Asshole "100年後"


作『homely』が各方面から絶賛されたからてっきり多楽器路線に行くのかと思いきや、評論家とファンの期待をわざと裏切るようなかたちで淡いサイケデリアに回帰した5枚目。この若さでゆらゆら帝国の不在を完全に埋めるアルバムを出してくるとは・・・この国のロック・バンドもまだまだ捨てたもんじゃない。テーマ性が重視されているようだが、絶妙なテンポ感が白眉の先行シングル「夜の船」を始め、AORを意識させるファンキーな「すべて大丈夫」、得意のクラウト・ロックを深化させた表題曲「100年後」など個々の曲でも充分楽しめる。ゆら帝がそうであったように、人生を虚構として認めた上で、そこに芸術としての価値を与えていくという感性は日本独自のものであるように思う。オーガがそういった表現の担い手として今後も重要な役割を果たしていくことは、本作を聴く限り間違いなさそうだ。


2012年12月20日木曜日

Best of 2012 #8 - Masabumi Kikuchi “Sunrise”


年の11月に逝去したポール・モチアンが参加した最後の録音・・・というキャッチフレーズが今後もつきまとうだろうが、正直、本作における最大の魅力は菊地雅章の縦横無尽に広がる独創的なピアノにある。次々と予測不能なメロディを繰り出しては、リスナーをからかうように先へ先へと進んでいく。必死で食らいつくモチアンやベースのトーマス・モーガン。そう・・・これがインタープレイだ。即興で生まれるジャズは、何もかもがパソコンでプログラミングされる現代においては化石のような立ち位置だ。それでも、研究熱心な学者のように、音楽へのあくなき探求心は必ず成果を生むということを忘れてはならないだろう。このピアノトリオによる傑作は、僕が初めて菊地の音楽に衝撃を受けた17人編成の『Susto』(81年)と変わらぬスリルで溢れている。

2012年12月19日水曜日

Best of 2012 #9 - Shackleton "Music for the Quiet Hour / The Drawbar Organ EPs"



験音楽にとっての1年はどうだったのだろう。各誌の年間ベストにはRaime “Quarter Turns Over a Living Line”Actress “R.I.P”といった内省的な作品が名を連ねる中、個人的にはこの壮大な挑戦に勝るものはなかったと思う。約1時間ノンストップに鳴り続けるシンセサイザーとビートの嵐・・・それはまるで永遠に続くジェットコースターのように聴き手の五感や重力を奪い、宇宙空間へと連れ去っていく。誤解のないように言っておく。これはジョン・コルトレーンやフライング・ロータスが提示する精神の極点としての宇宙ではなく、映画『プロメテウス』で描かれているような、未知の恐怖で埋め尽くされる不気味な洞窟だ。しかし、最大の驚きはこれがダブステップのベテランによる作品だということだろう。彼の音楽に対する信念は、本作で幾度となく繰り替えされるはフレーズが象徴している:「音楽は未来の兵器/現実は明確だ」

2012年12月16日日曜日

Best of 2012 #10 - Jessie Ware "Devotion"


ップス業界ではエイミー・ワインハウスの他界、新たなディーヴァとしてのアデルの台頭、リアーナの虐待問題・・・などが大いに騒がれた1年だったが、ダブステップが好きなイギリス人は全く別の女性シンガーの登場に熱狂していた。その名はジェシー・ウェア。デビュー作となる『デヴォーション』では新人とは思えない凄みのあるボーカルを披露している。ダブステップを基調としたサンプリングと生楽器の絶妙なバランスも素晴らしく、シャーデーがアップデートされたような“Running”、ジェイムス・ブレイクを意識した“Taking in Water”など大物と比較しても引けを取らない楽曲がずらりと並ぶ。方向性が定まらない女性アーティストが次々と流行りのクラブ・ミュージックに手を出す中、自身の手で唯一無二の世界観を展開したモダンR&Bの傑作。

2012年12月1日土曜日

Single of the Week




っぽい曲ということで、ショコラ&アキトの最新作から先行シングル『扉』を。一見フワフワしているように見える夫婦だが、楽器やコーラスの凝り具合からは容赦のないミュージシャンシップがうかがえる。めくるめくメロディの展開はまさに職人技。「閉じた扉は/無理にこじ開けず/執着しないで」といった潔い言葉は、夫の片寄明人のバンド、GREAT 3の新作『GREAT 3』で展開される死と隣合わせの歌詞と表裏一体の関係。何度も味わいたくなる一曲だ。


2012年11月23日金曜日

11月のプレイリスト


1. f(x) "Hot Summer"



2. Björk - Mutual Core (These New Puritans Remix)

3. Robert Glasper Experiment "Dilladude #2"

4. Wayne Shorter "Tarde"

5. 山下達郎 "Sparkle"

6. Lana Del Rey "Cola"

7. Friendly Fires "Why Don't You Answer"

8. Tame Impala "Why Don't They Talk To Me?"

9. Evade "Crush"

10. Kendrick Lamar "Bitch, Dant Kill My Vibe"




2012年11月17日土曜日

ペトロールズ "Problems" は最高傑作か





思えば、東京事変の最大の功績はペトロールズというバンドの存在を世に知らしめたことなのかもしれない。こんなにセンスの良い音楽がまだこの国に隠れているのだという事実は、僕を含めた多くのリスナーにとって希望をもたらした。しかし、ライブで演奏された初期の代表曲をビデオカメラで録音したというあまりにもふざけた最初の正規リリースは当然音質的な問題があり、彼らの才能の片鱗を覗かせるだけにとどまった。その約1年後、初めての正式なスタジオ盤として期待されたミニアルバム『EVE 2009』は過剰なプロダクションが足かせとなり、全く逆の理由で失敗に終わった。ではライブが素晴らしいかと問われれば、必ずしもイエスと即答できないのは実際に彼らの演奏を聴きに行ったことがある人ならばわかるはずだ。結局、彼らはどこまでもマイペースでややこしい連中であり、そのある種アナーキーな態度が多くの支持を得ているのもまた事実だろう。

しかし、ライブ会場限定販売となった前作『Capture 419』はその完成度の高さで多くのファンの度肝を抜いた。トリオとしての魅力をそのまま残しつつ、ヘッドフォン越しでも聴ける音質に仕上げたからだ。まぁつまり・・・普通のライブ盤。これで良かったのである。音源としてのリリースが長らく待たれていた「27時」なども文句なしの出来。その後、新しいスタジオ盤が正式に発表されたことで、「普通のバンドになった」彼らへの期待はますます膨らんだ。

さて、その結果はどうだったか。結論から言えば、『EVE 2009の問題だったオーバープロダクションが今回も足を引っ張っていると言わざるを得ないだろう。『Capture 419』に既に収録されている「誰」「ASB」は幾重にも重ねられたフレーズが3ピースならではの緊張感を削いでしまっている。ひとことで言えば、隙間がない。つまり、彼らの魅力である「余裕」が感じられないのだ。

もっとも、特筆すべき点はいくつかある。「エイシア」や「止まれ見よ」でのギタープレイは、浮雲の才能と誠実さを改めて認識させる名演だ。曲は「ホロウェイ」のように一瞬にして耳にこびりつくようなキャッチーさには欠けるが、このバンドならではの巧妙な展開とコーラスワークが光っているものばかりだ。やはり、普通のバンドではない。そのひねくれた個性がプロダクション面で裏目に出てしまったことが悔やまれる。


2012年11月11日日曜日

Brian Eno "Lux"


こ1、2年でアルバム自体は積極的に発表していたものの、純粋なアンビエントとしては実に久しぶりの作品だ。

驚くことに、僕が今作を聴いて最初に思い浮かべたのはコーネリアスだ。水滴のように弾けては消えるピアノの音が縦横無尽に展開され、その背後ではビブラートの効いたストリングスが鳴っている…これはSalyu Salyuじゃないか(もっとも、コーネリアスはイーノ影響を受けているので当たり前だと言われればそうなんですが…)!

過去のアンビエント作品との違いも目立つ。例えば95年の代表作『ミュージック・フォー・エアポート』では核となるフレーズを形を変えながらループさせていくことが、彼にとっての環境音楽であった。今作ではそういったフレーズはなく、かつてないほど自然に、つまりイーノ自身の手を離れたところで音が鳴っている。

そう…今回イーノが提供したのは音楽そのものではなく、音楽の再生装置だと受け止めるべきだろう。実際、今作を聴き終わったあとの感覚は、まるで天気のようにコロコロ変わってしまう。もちろん、それは環境音楽という意味では理想のかたちだ。イーノは今も環境音楽を貪欲に探求し、進化を続けていることを実感させる一枚。



2012年10月27日土曜日

Twinsistermoon "Bogyrealm Vessels"


ランスのデュオ、Natural Snow Buildingsの片割れであるMehdi Amezianeによるアンビエント・フォーク。近年においては自宅で音楽を作ることが容易になったことや、新しい音楽をネットで探すという習慣がある程度普及したことから、こうしたマイナーなソロ・プロジェクトでも注目を集める例が目立つ。しかし、ドローンやアンビエントといったジャンルは特に音楽の知識を必要としないということもあり、その殆どはコードの名前すらわからないような素人ばかり。そんな中、Twinsistermoonの音楽はとても魅力的だ。それは、彼女が自身のパーソナルな部分を音楽にする才能があることだろう。

2~3分という短い尺の曲が並べられているが、その一つ一つにストーリーがあると思わせるという点では、とても文学的な音楽だと言えるだろう。それでいて奔放で即興的な要素も感じられる。人生とはこういうものよ、と言わんばかりだ。白眉は彼女が作り出した別世界をくっきりとイメージさせる"The mirror land"。Natural Snow Buildingsのほうはシガー・ロスの宅禄バージョンといった印象だが、このソロ作の方は古本屋で眠っている美しい小説のようだ。





2012年10月9日火曜日

10月のプレイリスト

1. Brian Eno & Laraaji "The Dance #1"

2. Flying Lotus "Me Yesterday//Corded"

3. Miles Davis "Miles Ahead"

4. Outer Space "Vanishing Act"

5. Belong "October Language"


6. Holy Other "Inpouring"

7. Yoko Ono Plastic Ono Band "The Sun Is Down (Cornelius Remix)"

8. ペトロールズ "誰"

9. OGRE YOU ASSHOLE "すべて大丈夫"

10. Porter Ricks "Port Gentil"


今年もアンビエントとジャズがおいしい季節がやってきましたね・・・ということで、1は万華鏡のようキラキラと輝くダルシマーの音色を、3は思わずワインが飲みたくなってしまうマイルスのトランペットの響きをご堪能あれ。アメリカで活動するデュオ、Belongの5も最高のチルアウト。7〜9の邦楽勢は予想通りの実力といったところ。

YouTubeを適当にサーフしてると、きゃりぱみゅもSuperflyも学園祭に合わせてバンド演奏のPVを作ってて萎え。消費されることを前提に曲を作り、CDを出すアーティストってどのような心境で歌っているのだろう・・・



2012年9月23日日曜日

Flying Lotus "Until the Quiet Comes"




宙をテーマにした前作に対する評価が一時的なものにとどまったとすれば、それはジェイムス・ブレイクのような音の空白を重視するような時代の流れと逆行していたからだろう。しかし、それは彼が自分の色を持っていることの現れでもあった。もっというと、彼は新作においてますます音を詰め込み、意識的にイギリスの流行に逆らっているようにさえ感じられる。それはアメリカのヒップホップとジャズの文化に対する誇りと言ってもいいのかもしれない。彼はもはや時代の一部ではなく、音楽の現在を作っているのだ、という自負が芽生えてきたのだろう。

1~2分の曲が映画の1カットに対するサウンドトラックのようにせわしなく流れる構成は今まで以上に顕著になっている。驚かされるのはなんと言ってもその短時間に重ねられた音楽的なバラエティと、それを独自のサウンド・プロダクションに落とし込むバランス感覚だ。途中からハウス・ミュージックみたいなウワモノのシンセが宙を舞う「Me Yesterday」を聴くと、ベース・ミュージックというあいまいな枠組みですら彼の音楽を説明することができなくなっている。前作が「宇宙」をテーマに制作された抽象画だとすれば、今作はそれに次々と色が塗り重ねられた水彩画のような作品だ。

前作での経済的な成功が彼の音楽的なヴィジョンを実現可能なものにしたことは疑う余地もないが、より重要なのは彼の周辺にいる多彩なゲスト・ミュージシャンのサポートだ。前作から生演奏での参加で中心的な役割を果たしているサンダーキャットやミゲル・アットウッド・ファーガソンも引き続き素晴らしいプレイを展開しているが、今作では新たに女性ボーカルの活躍が目立っている。それは彼が主宰するレーベル、ブレインフィーダーの充実っぷりを見ても明らかで、「ビートシーン界のカニエ・ウェスト」と言っても過言ではないほどインストゥルメンタル・ヒップホップの拡張を牽引している。つまり、これは音楽が細分化されている現代においても時代を作りあげることは可能だという強力なステートメントである。愛とリスペクトに溢れた今作を聴いていると、イギリスのダンス・ミュージックが随分と陳腐なものに聴こえてしまう・・・そんなマスターピース。