2012年4月27日金曜日

Chromatics "Kill For Love"





の匂いのするところには甘い恋の香りも漂っている…というのがハリウッドの築き上げてきたイメージだが、そのサウンドトラックとしてこれほど相応しい作品はないだろう。音数の少ないギター、やたらとダビーなベース、そして官能的な女性ボーカル。1時間半という長さからもうかがえる通り、明らかに映像を意識した作りである一方、バンド演奏というスタイルにもこだわっているところに、このクロマティックスという集団の美意識を垣間見ることができる。冒頭の"Into the Black"では、気怠いギターとくたびれたドラムのリズムに乗せて女は歌う:




「消えていくくらいなら燃え尽きた方がマシ
ブルーから抜け出して
ブラックに足を踏み入れる」




退廃的な空気、孤独、夜、ガソリンのにおい・・・並べられる言葉はありがちなものばかりかも知れない。しかし、それはGirlsやAriel Pinkなどが体現するドラッグとセックスにまみれた死のユースカルチャーとは異なり、あくまで画面の向こう側のイメージとして、スタイリッシュに、メタに捉えられたものだ。前半のメロディアスな楽曲も素晴らしいが、ボコーダーのかかった歌声とミュートされたギター・リフが約9分にわたって展開される”These Streets Will Never Look the Same”辺りからところどころに佇んでいた街灯もいよいよ姿を消し、主人公を完全な空虚へと誘う。それは麻酔を打たれたような感覚で、ほんの少し前まで時間はゆっくりと流れていたはずなのに、気付けばエンドロールが流れ、カーテンが上がり、作品は終わりを迎える。そして、現実に抱えるあらゆる不安や悩みを塗りつぶしてしまうほど濃厚な暗闇が消え去ってしまったことに絶えられない僕らは、もう一度、その甘い歌声に手を伸ばすことしかできないのだ。









2012年4月8日日曜日

Lone “Galaxy Garden”



前作『Emerald Fantasy Tracks』のアートワークと見比べてみれば、LoneことMatt Cutlerが今作で示している音楽的方向性の変化は明らかだろう。要するに、海から宇宙へ・・・あるいは昼から夜へとその舞台を変えている。もっとも、これは最近のシーン全体に見られる傾向で、「チルウェイヴ=海」というイメージを作り上げたWashed Outは寝室へ、Toro Y Moiもダンスフロアへとそれぞれの道を歩み始めている。霧のように楽曲を覆っていたリバーブが薄れ、よりしっかりとした、シンプルな音が今のチルウェイヴの主流である。それはもはや、ノスタルジアを表現する場として、時代の最先端を走るダンス・ミュージックというフォーマットが相応しくないということなのかも知れない。

したがって、リバーブの効いた、陽気なLoneが好きだったファンにとっては、がっかりする内容になっているかも知れない。また、宇宙的=コズミックと呼ばれる音楽が持つスピード感や陶酔感という点では、依然からその方面で人気を博しているフライング・ロータスやハドソン・モホークに軍配があがることは否めないだろう。それでも、彼の卓越したメロディセンスはやはり何物にも代え難く、幾重にも重なるシンセのメロディが4つ打ちのビートと絶妙に絡み合う”Lying in the Reeds”は前作のハイライト”Aquamarine”の進化形とも言うべき、洗練されたダンス・ミュージックだ。まぁ、彼は今後もコロコロと方向性を変えて、リスナーを煙に巻くのだろう・・・だがその未熟さこそが、このシーンが持つかけがえのない魅力にもなっていることは確かだ。将来なんて、想像するだけ無駄なんだから。