2012年5月31日木曜日

May Playlist Vol.2



1.  Janet Jackson "Would You mind"


2. Modeselektor feat. Thom Yorke  "This"


3. Sigur Rós "Ég anda"


4. Gil Evans & Cecil Taylor "Bulbs"

5. きゃりーぱみゅぱみゅ "CANDY"

6.  Masabumi Kikuchi Trio "So What Variations"

7. Hocus Pocus "Place 54"


8. THA BLUE HERB "LOST IN MUSIC BUSINESS"

9. Massive Attack "Protection"

10. Submotion Orchestra "It's Not Me It's You(Original Mix)"



いやはや、この一ヶ月で一体どれだけの悲惨なニュースがこの国に降りかかったのだろう。ソニー、シャープ、パナソニック…かつて日本の誇りであった大企業は海外勢に飲み込まれ、通貨は価値を失い、芸術家たちはこの世を去った。そんな中、音楽を聴く僕の心境は複雑だった。シガー・ロスの4年ぶりの新作は2010年に制作されたヨンシーのソロ・アルバム『Go』の色鮮やかな音の重なり、すなわち開放的なムードが引き継がれていて、「未来は明るい」と主張している。逆に2のトム・ヨークはダブステップと共振しながらイギリスのアンダーグラウンドへと完全に舵を切っており、『In Rainbows』の頃の肯定的なムードから少しずつ遠ざかっている。5のきゃりぱみゅなんかはK-POPを吸収しながら金も希望もない今の若い世代に対して「考えるのはやめよう」と、日本語を韓国語で翻訳したような口調で語りかけている。一体、僕らに必要な音楽はどれなのだろうか。

そんなことを考えている間に、8を聴いて一気に目が覚めた。THA BLUE HERBの強烈なステイトメントであるこの曲は、音楽ビジネスを死にものぐるいで生き抜いてきたから彼だからこそ僕の、そして多くの人々の心に突き刺さる。随分と渋くなった声で彼は吐き捨てた。「代わりはいくらでも控えてるぜ/好きに使ってくれ/飽きたら捨ててくれ」

2012年5月28日月曜日

菊地雅章/ポール・モチアン/吉田達也/マイルス・デイビス




Masabumi Kikuchi Trio 『Sunrise』


ャズが好きな人から「好きなジャズの曲は?」と聞かれれば迷わずマイルスの"Fall"と答えるが、ファンク好きから同じ質問をされたら菊地雅章の"Gumbo"を挙げるかも知れない。菊地は日本でエレクトリック・マイルスのサウンドを洗練/深化させた第一人者として知られているが、その洗練されたポリリズムの構築美はむしろ混沌としたエレクトリック・マイルスにはない魅力である。中でも1998年に制作された代表作『Susto』は他の追随を許さない完成度を持っており、僕は初めて聴いた瞬間、『On the Corner』や『Bitches Brew』より大きな衝撃を受けた。

そんな菊地の初のECM録音が発売されると聞いて久々にわくわくしたが、それが昨年11月に惜しくもこの世を去ってしまったポール・モチアン(ビル・エヴァンス『ワルツ・フォー・デビー』などのドラマーとして有名)の最後の録音でもあると知ったとき、僕の頭に浮かんだのはやっぱりマイルスだった。エレクトリック・マイルスのサウンドを発展させた菊地と、マイルスのピアニストとして名を馳せたエヴァンスの右腕として活躍したモチアン。この2人が今になって出会い、共演したということ自体が、マイルスの残した功績を改めて物語っている。

さて、コンポーザーとしての菊地の魅力にしか触れたことがなかった僕にとって、ピアニストとしての菊地に焦点が当てられた今作は非常に新鮮な驚きで満ちていた。強烈にスイングする彼のピアノは、時にキース・ジャレット並みにやかましいうなり声とともに、演奏を静かなカタルシスへと導いていく。そこにリズムではなくフレーズとしてドラムを付け足すモチアンは、死の直前だとは到底思わせないような軽快なプレイを展開している(個人的なハイライトは、マイルスの名曲"So What"をモチーフにした"So What Variations")。静かな、凛とした雰囲気はさすがECMといったところだが、その中でもしっかりと「グルーヴ」を感じさせることができるのは、この3人の化学反応が成功であることを物語っている。




Tatsuya Yoshida 『Drums, Voices, Keyboards, & Guitar』

次に耳にしたのが、偶然にも菊地雅章のSlash Trioというバンドでドラマーを務めている吉田達也のソロ・アルバム。この人に関しては、ルインズというバンドを結成したアヴァン・プログレ・ドラマーだということぐらいしか知らなかったが、(ルインズの作品は一枚も聴いたことがない)この路線で世界的に支持されているボアダムズ同様、音楽としてとにかく面白い。『Drums, Voices, Keyboards, & Guitar』と名付けられたこの作品は、その名の通りドラム、ボーカル、キーボード、そしてギターによる即興演奏集だが、実際はカリンバといった楽器にもアプローチしたり、さまざまなエフェクトを駆使したりと、その音楽性にはただ驚くばかりだ。13曲目の"Vonisch"はOneotrix Point Neverの名盤『Returnal』の1曲目にサンプリングされているし、ドラムと声の実験からなる"Drums_Voice"シリーズのあとの第2章の一部なんかは、なるほどドローンとして聴くことも可能だ。ドラムに大量のリバーブやらディレイやらディストーションをかけていく第3部はもはやパーカッシブな要素がなくなりベースやギターに聞こえる瞬間もあるし、自分がドラムをやっていたらかなり影響を受けていたかも知れないな・・・


菊地にしろ吉田にしろ、結局のところ、ひとつの楽器とひたすら向き合うという作業はジャンルや音楽性といった言語的な要素の強い側面をあくまで派生的なものとみなし、自身の「表現」をより強固にしていくのだろう。それが真の音楽家のあるべき姿だと思うし、彼らの音楽を聴く度に、僕は自分に問いかける。「お前は一体何がやりたいんだ?」と。

2012年5月17日木曜日

May Playlist Vol.1

1.  Oneohtrix Point Never "I Only Have Eyes for You"


2. Tangerine Dream "Love On A Real Train"


3. Traxman "Footwork on Air"


4. Gui Boratto "Take My Breath Away"

5. Eric Dolphy Quintet "G.W"

6. Thelonious Monk Quartet with John Coltrane "Sweet&Lovely"


7. Aphex Twin "Xtal"

8. J Dilla "So Far To Go"


9. Bersarin Quartet "Oktober"

10. Mark Mcguire "Far Away"

2012年5月2日水曜日

April Playlist


1. Robert Glasper “Cherish the Day”

2. Robag Wruhme “Thora Vukk” 


3. Frank Ocean “Swim Good”


4. Betty Wright “In The Middle Of The Game” 


5. Chromatics “These Streets Will Never Look the Same”


6. Spiritualized “I Am What I Am”


7. Radiohead “Identikit”


8. Beach House “Lazuli”


9. Dr. Dre “Let Me Ride”


10. Santigold “Big Mouth”



に向けてロックバンドの再結成(マイブラ、ストーン・ローゼズ、ビーチ・ボーイズ等々)やアルバムのリイシューが次々とアナウンスされ盛り上がっているが、「今」の音楽はむしろ彼らの栄光を遠ざけるように細分化/発展を続けており、僕としてはそっちを追いかけている方が100倍楽しい。今月はヒップ・ホップとR&Bに大分遅れを取りながらも、ブラック・ミュージックとしてのジャズをアップデートさせたロバート・グラスパーという才能に出会い、スピリチュアライズドの新作におけるギター・ノイズの応酬に心を震わせ(当分はヴェルヴェット・アンダーグラウンドを聴く必要はないだろう)、Actressのしたたかなアンビエンスに息を呑んだ。そして何より、あまりに大人な恋愛小説『The Marriage Plot』を読んだことで、人間関係に対する考え方をなんとなく見直しつつある。今月は待ちに待った巨匠・ペドロ・アルモドバル監督の新作『私が、生きる肌』が公開。これはもう・・・やばいでしょ。