2013年2月10日日曜日

帰ってきた「物語の続編」 - Foals "Holy Fire"


ートワークをひと目見た瞬間、この作品が前作『TOTAL LIFE FOREVER』の続編なのではないかと感じた。馬にまたがる5人の騎士が海に向かってゆっくりと進んでいく様子を描いたこの画からは、前作では海中でもがいていた5人のメンバー(ジャケ参照)がたくましくなって地上に帰ってきた—そんなストーリーを連想することができたからだ。そして実際に、今作は彼らが新たな飛躍を遂げたことを決定付ける一枚となった。誤算だったのは、アートワーク以上に演奏がその事実を物語っていたことだ。

2008年、オックスフォードから彗星のごとく登場したフォールズのデビュー作『Antidotes』が素晴らしかったのは、ミニマリズムに敬意を払いつつ踊れるロックを鳴らすことができたからだ。最大の特徴は真空パックのように圧縮された演奏。「上手い」とはお世辞にも言えないが、勢いがありつつどこか冷静な温度感は、ダイナミズムとは無縁の不思議なものだった。

ファーストにして既に自分たちのスタイルを完成させてしまったというジレンマに陥った彼らが選んだのは、(多くのバンドのように大きく方向転換するのではなく)持ち味のミニマルな演奏をさらに研ぎ澄ますという鍛錬の道だった。3年後に発表された2作目『TOTAL・・・』には贅肉がそぎ落とされた強靱な音が鳴り響いた。多くのメディアはこうした変化を「新たなステップ」と絶賛した。

ただ、今聞き返すと、デビュー作とは比較にならないほど凝ったプロダクションが、彼らの「強靱さ」に一役買っていたことは否めない。ダーティ・プロジェクターズやフォー・テットといった当時周辺にいたアーティストからの影響を強く感じられるのもまた事実で、この時点で彼らが「脱皮を遂げた」と言うのはまだ早かったのかも知れない。

こんなことを思ってしまうのは、今作があまりにも強力な「軸」を持っているからに他ならない。“Prelude”と題された、文字通り本作への入り口となるインストを聴き終えると、シンプルな演奏から滲み出る技量にバンドの進化を感じずにはいられなかった。象徴的なのはリズム隊。デビュー作ではギターのアンサンブルについていくのが精一杯だった感のあるベースとドラムが、今作ではむしろ曲に性急を付け、全体をコントロールしている。強力な土台の上で2本のギターは一層淡々と、しかし一層自由に、浮遊している。

先行シングルとして聴いたときは今イチな印象を受けた “Inhaler” “My Number”といった曲たちも、彼らの意図が明確なこのアルバムの一部として聴くと非常に納得のいく仕上がりになっている。『TOTAL・・・』がボクサーにとっての減量のような作業だったとすれば、今回はその鍛え上げられた肉体にもう一段筋肉を増強していく、ヘビー級へのチャレンジだと言えるだろう。ハードロックやメタルを取り込みヘッドフォンにたたみかける前半では、その成果が如実に表れている。



さらに “Out of the Woods”以降の後半では、『TOTAL・・・』で獲得した繊細な音のバランス感覚にも磨きがかかっていることが伺える。 “Milk&Black Spiders”では木琴とギターの絡み合いの上にシンセが丁寧に重ねられていき、最後は弦楽器まで挿入されるという懲り具合。もはやレディオヘッドの曲と比べても遜色ない、熟練の域に達している。

最終曲“Moon”の淡いアンビエンスで幕が下りるまで約50分。『TOTAL・・・』とほぼ同じトラックタイムにも関わらず大分短く感じられるのは、このアルバムが世界観を築いている証拠だろう。キャッチーさという点では『Antidote』や『TOTAL・・・』に及ばないが、彼らの成長を見守ってきたファンにとってはこれ以上ない魅力に溢れた一枚だ。






2013年2月3日日曜日

高円寺の隠れた名店①「餃子バル 高円寺北店」


円寺駅北口を出てさらに北の方へ徒歩10分強。早稲田通りに出たところで道路の向こう側に「餃子バル」という気になる看板が出ています。中に入ると、カウンター席が11席、テーブル席2×2という、かなり狭い空間。ダウンジャケットを脱いで壁にかけようとすると、テーブル席に座っている人にあたってしまうほど(笑)。ただ、これは「バル」というコンセプトの通り、気軽に立ち寄って飲食ができるというお店なのでしょう。

僕が行ったときはカウンター越しの厨房に店長らしき人が1人。お客さんは6人で、このうち3040代ぐらいのカップル2人は既に食べ終わった様子でした。この2人、なんとお会計の際に「焼き餃子ダブル(12個)を持ち帰りで注文。(お店で食べて、家に帰ってからも食べるのか…どんだけうまいんだ…)期待は高まるばかりです。

カウンターに座りメニューを見ると、視界に飛び込んできたのは大きく書かれた「サービス ビールセット1000円」という文字。「ビールセット」とはビール+「焼き餃子ダブル」のセット。別々に注文する場合と比べて、確か200円くらいお得なんです。僕は初めての来店だということもあり、迷わずこれを注文しました。しかし、注文後に改めて全ての品が書かれたメニューを読んでみると、これが巧妙な罠だということに気付きました。

説明致しましょう。そもそも「餃子バル」をうたっているお店だけあって、メニューはほとんどが餃子。つまり…中華やラーメン屋では見ることのできない、興味深い種類の餃子がたくさんメニューに書いてあったのです。「バル」ということだけあって、ドリンクも中国系の見たことのない名前がずらり。安易に「ビールセット」に走るより、「シングル(6個)を食べてから「鶏皮餃子」や「しそ餃子」などに裾野を広げて行く方が、正しい食べ方なのだと気付きました。

しかし、時は既に遅し。「終わった…」僕は早くも深い悲しみに浸りながら、出てきた「ダブル」に箸を伸ばしました。すると…どういうことでしょう、あっという間に完食し、「鶏皮餃子」を注文していました。そう…ここの餃子、驚くほど「軽い」んです。下手すれば、一口で2つ食べてしまえるのではないかと思えるほど。「ビールセット」はトラップではなく、この事実に気付かせるための入り口として機能していました。


さらにサプライズは続きます。次に出てきた「鶏皮餃子」は文字通り餃子の皮ではなく鶏皮で具を包んだ餃子で、味は「骨のない手羽先」。つまり、めちゃめちゃうまいんです。カウンターには醤油・酢・ラー油という定番の調味料が常備されていますが、「鶏皮餃子」にはあっさりしたタレが一緒に付いてくるため、普通の餃子とはひと味もふた味も違った楽しみ方ができる。まさに「バル」の名にふさわしい、多彩なラインアップが用意されています。

しかし、食べすすめるうちに僕の中でひとつの欠点が浮き彫りになってきました。「これでは、いくら食べてもお腹がいっぱいにならないのではないか…」「鶏皮餃子」などの独自餃子は一皿(4個)400600円と、決して安くはありません。お腹がいっぱいにならないまま食べ続ければ、最後は地獄のようなお会計が待っていることは明らかでした。


もちろんこのお店は、このジンクスにちゃんと気付いていました。そこで用意したのが切り札とも言える「やみつきそば」500円。これは一見、細麺に葱、もやし、半熟卵がのっているだけの極めてシンプルなもの。しかし、器の底にたまっているタレと絡めて食べると、カップ焼きそばを和食の料理人がアレンジしたような、ジャンキーさと上品さとの絶妙なバランスに驚かされます。まさに究極のB級グルメ。周りを見ると、明らかに常連っぽい男性は餃子を食べず、これだけ注文していました。

間違いなく「餃子」に強みを持ちながら、さまざまな表情を見せる「餃子バル」。行く度に新しい発見がありそうです。