2011年12月30日金曜日

Best of 2011 - Best Tracks

1. Radiohead “Staircase”


2. Cass McCombs “County Line”

3. Gang Gang Dance “Glass Jar”


4. Toro y Moi “I Can Get Love”

5. Beyonce “1+1”


6. Atlas Sound “Terra Incognita”

7. The Rapture “How Deep is Your Love?”

8. 二階堂和美 “女はつらいよ”

9. Thundercat “Daylight”


10. Egyptrixx “Recital (A Version)”

11. salyu×salyu “続きを”

12. Wild Beasts “Albatross”


13. Fleet Foxes “Helplessness Blues”


14. Frank Ocean “Novacane”

15. Ford & Lopatin “New Planet”

16. Todd Terje “Snooze 4 Love”

17. Talib Qweli “Wait For You”

18. Four Tet “Pyramid”

19. Burial “NYC”

20. Wilco “One Sunday Morning”


2,6,13はカントリー/フォークの傑作。
5は今年最高のポップソングで、ビヨンセの最高傑作かも。
9はライブ・バージョンが最高。
12は音の抜き方が素晴らしいと思った。
14は世界的にヒットした若者向けR&B。
15の冒頭30秒間は今年最高のトリップ。
17は今年一番の実力派ヒップホップ。大好きな6th senseがプロデュース。
7,10は飲み会の前に。16,18,19は帰り道に。
8は何かあった時に。20は何も予定がない日の朝に。

Best of 2011 #2 - 二階堂和美 "にじみ"



安藤裕子が昨年『J POP』というアルバムを出していたが、僕にとってはこのアルバムこそがJ POPだ。つまり、それは女の歌謡曲である。それは、この国の大衆音楽自体が後ろ向きなものであることを意味するが、プライベートで何かあったときに帰るべき場所がきちんと用意されているという点では、ああ日本人男子でよかったと思うこともある。そんな僕にとって"にじみ"における二階堂和美の歌は「帰るべき場所」の役割を見事に果たしてくれていて、あの時告白しなかったことを悔やむ主婦も(“女はつらいよ”)これから始まる恋に焦がれる少女も(“あなたと歩くの”)、自由自在に表現できてしまうその才能には脱帽。


Best of 2011 #3 - 少女時代 “Girls Generation”



K-POPの実力を証明した一枚。彼女たちの楽曲や洗練されたダンスを見ていると、アメリカでバックストリート・ボーイズやデステニーズ・チャイルドが流行していた時代を思い出す。そこには、パソコンの画面上…つまり、インターネット産業へと委託され、個々の実力よりも音楽/広告/ファッション業界から提案される斬新なアイディアが評価される現在のポップスからは失われてしまった、プロのアーティストとしてのメンタリティーがあった。だから、素人アイドルに金をつぎ込む日本人に背を向けて、「本国」アメリカへと進出することを選んだのもよくわかる。「雑魚に興味はない」というスタンス、そしてそう言えるために血のにじむ努力を繰り返す姿には、感動を覚えずにはいられない。


Best of 2011 #4 - Toro y Moi “Freaking Out EP”



チルウェイヴについてひとこと言わせてもらうと、それは音楽性よりも制作される環境によって定義されると考えるべきだろう。すなわち、演奏者としての経験が少なくリスナーとしては経験豊富な若者が、音楽ソフトを使ってリバーブとコンプレッサーを過剰にかけた宅録音楽だ。音楽的に見れば驚くほど素人くさい作品が多いが、それは元々AKB48が素人の集まりだったのと同じで、いつの間にか視界から消えてしまった「大衆音楽」の揺り戻しだと言えよう。だから、ウォッシュド・アウトとトロ・イ・モアというこのジャンルを代表する2人がある程度の商業的な成功を収め、大規模なライブや金のかかったプロダクションを経験することで、(AKB48のコンセプトと同じように)チルウェイヴの消滅は必然的なものになった。実際のところ、2011年の最後の3ヶ月くらいはもうほとんど「チルウェイヴ」という単語を目にすることもなくなった。
故に、トロ・イ・モアのこのミニ・アルバムは、おそらくチルウェイヴ最後の傑作だ。このジャンルを確立させた2010年の名盤『Causes of This』にミラーボールを放り込んだようなサウンドで、あなたはその目にも止まらぬスピードで入っては消えていく音の数々にただ身を任せるだけでいい。洗練されたポップスへと接近していったウォッシュド・アウトの2作目『ウィズイン・アンド・ウィズアウト』とは対照的に、走馬燈のように消えていく思春期の記憶を呼び起こすことができるだろう。まぁつまり、この時代におけるロックンロール・・・というのは言い過ぎだろうか。いずれにせよ、これはチルウェイブという甘い夢に対する、あまりにもロマンティックな鎮魂歌。



2011年12月28日水曜日

Best of 2011 #5 - Madlib “Medicine Show No. 12 : Raw Medicine (Madlib Remixes)”



現代における新しい音楽との出会い方として、ヒップホップのトラックでサンプリングされた曲をネットで検索するという手法がある。この作業をもっとも楽しむことができるのが、4トンものヴァイナルを所有しているという稀代のクレイト・ディガー=マッドリブが様々なテーマで編集したミックステープを12回にわたってリリースするというプロジェクト”Medicine Show ”だ。最終作となる”Raw Medicine (Madlib Remixes)”ではヒップホップを中心にセレクト。12作全てを聴いたわけではないが、個人的には昨年の” #10: Black Soul”に次ぐ傑作で、相変わらず中毒性のあるスモーキーなミックスが冴え渡る。このシリーズがなければ出会わなかったであろう素晴らしいアーティストを発見することができて、この時代を生きていることに心から感謝。


Best of 2011 #6 - Panda Bear “Tomboy”



個人的には彼の出世作となったPerson Pitchのみならず、Animal Collectiveの作品も含めて最も好きなアルバムとなった。それは、彼がサンプリングのコラージュから距離を置き、歌とギターを中心とした伝統的なソングライティングへとシフトことで、演奏者/作曲家としての魅力を際立たせることができたからに他ならない。そこにプロデュースを担当したソニック・ブームの淡いサイケデリアを塗せば、儚くも中毒性の高いループ・ミュージックの完成だ。 パンダ・ベアの天まで届きそうなほど透明な声と、地下室に籠って制作されたという本作を覆う不穏な空気感は不思議とマッチし、世の中の激動とは裏腹に平和な日常を過ごしていた僕の心にするりと入り込んだ。どの曲も良いが、ミニマル・ドローンとボーカルが祈りのように消えていく最終曲“Benfica”には完全にノックアウト。





2011年12月27日火曜日

Best of 2011 #7 - salyu×salyu “s(o)un(d)beams”


彼女が念頭に置いて小山田圭吾にプロデュースを依頼したと語る「クロッシング・ハーモニー」(詳しくは彼女のインタビューを参照して欲しい)というコンセプトが実現できたかどうかは別として、日本の女性ポップシンガーにしては近年稀に見る野心的な試みであったことは間違いない。完璧主義(だと思う)な彼女にとって「声」以外の殆どのパートを他者に委託するという決断は簡単ではなかったはずだが、坂本慎太郎氏の作詞を筆頭に多彩な才能が加わったことで、良い意味で力の抜けた作品となった。サリュの力強いハーモニーとコーネリアス節全開のミニマリズムに圧倒される前半も素晴らしいが、最後に収録された“続きを”の普遍的なポップネスは特別な響きを持って3.11後の僕の心を揺らした。

2011年12月25日日曜日

Best of 2011 #8 - Gang Gang Dance "Eye Contact"


ブルックリンのノイズ・シーンから出てきた彼らがここまでポップで構成力のあるアルバムを作れるとは、一体誰が予想しただろう。前作『セイント・ ディンフナ』('08)はクリエイティブな作品だったが統一感に欠け、実験音楽の域を超えることはなかった。それに比べて今作は即興的な要素を減らし、より綿密に練られたソングライティングへとシフト(”4AD Sessions”でのスタジオ・ライブを見る限り、キーボードやサンプラーを操るブライアン・デグロウの素晴らしいプレイを軸に、多くの曲はほぼ完璧に再現されていた)。特に、何重にも織り込まれたデグロウのシンセにタメの効いたドラムソロが加わって盛大に幕を開ける"glass jar"は11分という長さを感じさせないほどトリッピーで、間違いなく今年のベストトラックのひとつ。乱反射し続ける光の中で踊り続けよう。

2011年12月17日土曜日

Best of 2011 #9 - Oorutaichi “Cosmic Coco, Singing for a Billion Imu's Hearty Pi”



アメリカやヨーロッパのアーティストが宇宙をテーマにした音楽を作ると多くの場合それは神秘的で絶対的な存在として解釈されるが、日本のアーティストにとっては奇妙な生き物のような感覚なのではないだろうか・・・このユニークなアヴァンギャルド・ポップスを聴いていると、そんなことを考える。オオルタイチ3年ぶりのアルバムはグリッチ音やピッチの高いシンセを多用した前作に比べてエレクトロニカの要素を強め、作品として聴きやすくなった印象。それでも危なっかしさやテンションの高さは全く損なわれておらず、ギリギリのポップスとして見事な完成度とオリジナリティを誇っている。ボアダムスのEyヨとフライング・ロータスの盟友ダーデラスという、全く異なるシーンに属する2人がリミックスに参加しているということが、その事実を何より証明しているだろう。同じ方向を向いているアニマル・コレクティブの何倍も面白く、セクシーで、尖ってる。





Best of 2011 #10 - Thundercat "The Golden Age of Apocalypse"




フライング・ロータスが主宰する<ブレインフィーダー>からリリースされた、エリカ・バドゥのバックなどを務めるベーシストのソロ・デビューアルバム。<ブレインフィーダー>はプロフェッショナルなミュージシャンと革新的なアイディアを持った若いビートメーカーがクロスオーバーする素晴らしいレーベルで、今作はその最良の成果のひとつと言える。後半の失速感は否めないが、怒濤の勢いで駆け抜ける”Daylight”から”For Love I Come”までの流れは白眉の出来。Thundercatの超高速ベースソロはもちろん、オースティン・ペラルタ(key)のファンキーなプレイも素晴らしい。音楽的にはフュージョンやジャズに分類されるだろうが、それでも古さを全く感じさせないのはフライング・ロータスのシャープなプロダクションによるところが大きいだろう。その名の通り、黄金時代の到来を予感させる一枚。


2011年12月7日水曜日

James Blake "Love What Happened Here"




ジェイムス・ブレイク、12月11日発売の新EP『Love What Happened Here』からタイトル曲がリーク。これは久しぶりのヒット。4小節のフレーズを5分半繰り返しているのに、ここまで聴かせることができるアーティストはなかなかいないですよね。





2011年12月3日土曜日

Oneohtrix Point Never "Replica"



OPNことダニエル・ロパティンは、今もっとも注目を集めるニューヨークの実験音楽家のひとり。Ford & Lopatin という2人組のユニットで作品をリリースしたり、自身のレーベルSOFTWAREを運営したりと、その活動は多岐にわたる。

そんな彼が満を持して発表した新作『レプリカ』は、リリース後に各方面から高評価を獲得しており、彼の代表作として記憶されることは間違いなさそうだ。しかし、個人的には位置づけの難しい作品だ。

もっとも、彼のルーツである現代音楽家としての側面と、『リターナル』を支配していたドローン・アーティストとしての側面がバランス良く配合された作品であることは間違いない。アルバムのハイライト“レプリカ”では、繰り返されるピアノのフレーズに様々なノイズやYouTubeの適当な動画からサンプリングされたであろう短いループが重なり、唯一無二の緊張感を生み出している。シンセサイザー以外の楽器をほとんど使わずに曲に構成力を持たせることができるのは、現時点では彼くらいだろう。

とはいえ、そのバランスの良さが今作の最大の弱点でもある。あらゆる要素がオーケストラのようにコントロールされている『レプリカ』では、前作『リターナル』の美しいアンビエント・ドローンや、Ford & Lopatin『チャンネル・プレッシャー』の乱反射するビートの嵐は影を潜め、あくまで要素のひとつとして均質的に機能している。つまり、アンビエントに浸りたいのなら『リターナル』を、踊りたければ『チャンネル・プレッシャー』を聴いた方が効果的ということになる。『レプリカ』を通してOPNはドローンにも現代音楽にも接近できる希有な存在であることを証明したが、その組み合わせという点ではまだまだ冒険の余地がありそうだ。


2011年11月27日日曜日

Floating Points “Shadows”




ジェームス・ブレイク以降の「ダブステップ」(もはやこのジャンルは消え去ったと思うが)はダブというよりむしろ静寂がキーワードになっている。Mount Kimbieなどと並んでダブステップの代表格と謳われるFloating PointsことSamuel T Shepherdも例外ではなく、2007年の”Vacuum Boggie”で一躍有名になってからはミニマル路線にひた走ってきた印象がある。今年発売された7インチ・シングル”Danger”ではそのあまりの変化に戸惑いを隠せなかったが、この最新EP ”Shadows”ではFloating Pointsの最大の武器であるローズ・ピアノのセクシーな音色とグルーヴィなベースラインが「静寂」との結合に成功した、彼の最高傑作だと言うことができるだろう。

冒頭の”Myrtle Avenue”が全てを物語っている。控えめなシャッフル・リズムを背後にローズ・ピアノが主旋律を繰り返し、ベースがゆっくりと熱を加えていく。4分近くで最初の盛り上がりを迎えるが、その後一旦スローダウンし、また徐々に音量を上げていく。この辺りに”Vacuum Boogie”にはなかった、構成の美を感じ取ることができるだろう。

彼の引き算へのこだわりは揺らぐことなく、”Myrtle Avenue”以降もその姿勢は徹底して貫かれている。アンダーグラウンドだった「ダブステップ」がポピュラーミュージックと化し、派手なシンセと高速パーカッションで埋め尽くされるようになってしまった現在、彼のようなしたたかさを感じられる存在は貴重で、ブームと共に消え去って行くアーティストではないことは間違いない。


2011年11月26日土曜日

Nils Frahm "Felt"



今週最も聴いた作品は、ドイツの若きピアニスト/作曲家の最新作。特筆すべきは、全ての楽曲が彼が夜中に自宅で録音した即興演奏であること。彼曰く、「近所迷惑にならないように、弦の上に分厚いフェルトを敷き、かなりソフトなタッチで弾くことを意識した」そうだ。結果、まるでピアノの中から彼の演奏を聴いているような、不思議な緊張感と密度を持った傑作に仕上がった。

ピアノがミュートされているため、弦が動く音やニルズの息づかいなどの環境音が入りこみ、独特の世界観を作りあげる。楽曲もすばらしく、シガーロスを彷彿とさせる”Keep”や音量変化が見事な5分半のアンビエント”Less”などさまざまな表情を見せながらも、その変化はアルバム全体を1つの曲として捉えることができるほど自然だ。9分の大曲”More”でドラマチックに幕を閉じると、あなたはもう一度再生ボタンを押し、外界から完全に切り離された彼の美しい音世界に身を委ねてしまうだろう。


2011年11月23日水曜日

11.22.11


今日はウェブマガジンQeticの編集長から面白い話を聞くことができた。

彼女は19歳のときに、貧困に苦しむ人々へのギフトとして、20足の靴を持ってチベットに1ヶ月間ボランティアに行ったそうだ。当然、靴をもらうことができたのは20人の幸運の持ち主だけだ。

一年後、彼女は再びチベットを訪れ、衝撃を受ける。あの時靴を受け取った人とそうでない人の間で経済格差が生まれていたのだ。靴を受け取った人は経済的な豊かさを得た一方、その靴が自らの地位を証明する道具・・・つまり、唯一の財産となり、命懸けで守らなければならなくなった。

それから20年後、編集長の元に一通の手紙が届く。彼女から靴をもらったひとりの男性からだ。彼はその後アメリカの大学へ進学し、現在は脳科学者として活躍しているという。「あの靴のおかげです。本当にありがとう」手紙にはそう書いてあったそうだ。

まるでドキュメンタリーのような逸話だが、僕が何より驚いたのは、彼女がこの思い出を振り返りながら「やってよかったな」と呟いたことだった。同じような経験をした人の中には、大きな過ちを犯したと考える者もいるだろう。だが、重要なのは、彼女がこの経験を前向きに捉え、ウェブマガジンQeticを立ち上げたことだ。決断は下された。そして、少しずつ事態は変わり始めた。



レディオヘッド『イン・レインボウズ』(2007)に収録されている“レコナー”という曲を思い浮かべる。「レコナー」(reckoner)とは「最後の審判」という意味であり、この曲、そして『イン・レインボウズ』という作品には、1人ひとりが審判を下していくことによって社会が変化していくというメッセージが込められている。

僕たち1人ひとりの決断が少しずつ世界を変えていく・・・考えてみれば当たり前のことだが、そこには希望に満ちた響きがある。