2013年12月30日月曜日

Best of 2013 #1 - Julia Holter "Loud City Song"





こまで化けるとは、一体誰が想像できただろうか…サンプラーとシンセサイザーを使ってひとりで制作したデビュー作「Ekstasis」を聴いた時点では正直、当時の流行だった「宅録少女」の一部として認識していたに過ぎなかった。しかし、パリの社交界を描いた1958年の映画「Gigi」を再解釈するというコンセプトをもとに作られた本作によって、一気にジョアナ・ニューサムやフィオナ・アップルと肩を並べる存在になったと言っても過言ではないだろう。チェロ、バイオリン、サックス、パーカッションという編成が織りなす前衛的なアンサンブルの上でしっとりと歌が重なり、映画の世界観を見事に築き上げている。コンセプトアルバムであるためどの曲も必聴だが、特に圧巻なのはバーバラ・ストライサンドの名曲「Hello Stranger」のアンビエント風カバー。サブベースのように揺れるホーンと折り重なるストリングスをホルターの歌が包み込み、ほんの一瞬、この世界にいることを忘れさせてくれる。





2013年12月29日日曜日

Best of 2013 #2 - Shinee "Everybody"





Skrillexの過剰にスクリュード・アップされたベースとシンセを大胆に拝借した冒頭の「Everybody」を聴いてぶっとんだが、それに合わせて同じアジア人とは思えないキレキレのダンスを踊る彼らの様子をYouTubeで見たとき、ああ、KPOPは新たなステージを迎えたんだなと確信した。レトロな生楽器と細切れに挿入される効果音のバランスが絶妙な「Queen of New York」や実験的なコードワークをそつなく歌いこなす「One Minute Back」も素晴らしい。ここ日本の男性アイドルと言えば、20年以上同じ曲を量産し続けるジャニーズと、客を適度に満足させることに全力を注ぐEXILEくらいか。彼らが音楽ファンを獲得できないのは、「アイドルだから」という単純な理由のみならず、自分を追い込むストイックや、新しい音楽を作ろうという意識が欠如しているからに他ならない。韓国政府が戦略的に金をじゃんじゃんつぎ込んでいるという違いも加味した上で、あらゆる側面で完敗だと改めて実感した一枚。





Best of 2013 #3 - DJ Rashad “Rollin”




2013年はジューク/フットワークが音楽ジャンルとして確立され、さまざまなアーティストが流行の波に乗ろうと参入を試みた年だった。そんな中、圧倒的な実力を見せつけて新参者をねじ伏せたのがフットワークを世に広めた張本人、DJ Rashadである。飛び道具は何もない。マーチングドラムの上でフリーキーなシンセが舞う“Drums Please”R&Bを取り入れた “Let it Go”といった名曲たちは長年の経験による音楽センスと洗練されたトラックメイクの賜物。確かに実験的ではあるが、フットワークを愛し、ルールを忠実に守ったからこそこの名盤は生まれたのだろう。敬礼。





2013年12月28日土曜日

Best of 2013 #4 - Saint Pepsi “Hit Vibes”





ルウェイヴのように聞こえるが、人間味が決定的に抜け落ちている。まるで亡霊が演奏しているような空虚さに溢れた音楽が今、一部の間で熱狂的な支持を集めているのをご存じだろうか。「Vaporwave」と呼ばれるそれは昨年からじわじわと裾野を広げ、このSaint Pepsiに至ってはトロ・イ・モワや山下達郎でさえ棺桶の中に引きずり込んでいる。血が抜かれたペラペラなファンク・ミュージックは鳴っている・・・誰もいないダンスフロアで。まさかのフリーDL(http://keatscollective.bandcamp.com/album/hit-vibes)





Best of 2013 #5 - Daft Punk “Random Access Memories”






“Tron”のサントラを除いて)8年ぶりの新作を発表して世間を沸かしたかと思えば、世間が求めていたEDM (electronic dance music)に中指を立てて高品質のファンク・ミュージックに舵を切った問題作。8ビートのファンクネスを極めた至福の冒頭4分間 “Give Life Back to Music”や伝説のプロデューサー、ジョルジオ・モロダーのモノローグが精密に組み込まれる “Giorgio by Moroder”、カリフォルニアのビーチになびく風のように爽やかなペダル・スティールが美しい “Fragments of Time”など楽曲の完成度には舌を巻くばかり。また、ナイル・ロジャース(その後、Disclosureと素晴らしいシングルを出している)やポール・ウィリアムズといった近年あまり注目されてこなかったアーティストの起用が音楽シーンにもたらした影響も大きい。唯一の欠点は、あまりに時代のムードとかけ離れていたこと。これだけの作品でも世論を変えられなかったのは、彼ら自身が作り出したDJという虚像が肥大化し、ダンス・ミュージックを飲み込んでしまったからに他ならない。






2013年12月26日木曜日

Best of 2013 #6 - Laurel Halo “Chance Of Rain”





年、もっとも前向きだった一枚。スタイル的にはボーカルを多用した前作 “Quarantine”以前の状態に戻っているかのように思えるが、その研ぎ澄まされた集中力によって実験性を一段と強めながら、ダンス・ミュージックとしての強度を高めることにも成功している。驚くべきなのは、複雑に聞こえる音の重なりも分解していくとキーボードとドラムマシンに集約されること。つまり、アナログな手法で電子化され尽くした現在の音楽の最先端を走っているのだ。強烈にグルーヴする “Ainnome”からピアノソロ小品 “-Out”への洗練された流れには、若干2枚目のフルアルバムにして風格すら漂う。彼女の父が描いたという不気味なアートワークも、カオスと秩序が共存するこの作品の世界観によく合っている。







2013年12月25日水曜日

Best of 2013 #7 - Oneohtrix Point Never “R Plus Seven”





世作『Returnal』のドローンは完全に姿を消し、前作『Replica』で(やや過剰に)展開されたチープなサンプル音のコラージュも姿を潜めた今作は、「音」や「テクスチャー」というよりも「ストーリー」に軸に置いた一種のサウンドトラックと位置づけることができるだろう。つまり、ダニエル・ロパティンのソングライターとしての魅力を発見することができるのだ。重厚なオルガンに合唱団の声を細切れにして乗せていく「Boring Angel」しかり、組曲のような展開を見せる「Still Life」しかり、それぞれの物語が存在し、自分自身のその中に当てはめることができる・・・この点では良いポップソングと同じように美しい。異なるのは「物語」が我々の抑圧された感情や欲望に焦点を当てること。夢で起きた出来事をゆっくり点検していくような、グロテスクな精神療法のような傑作。







Best of 2013 #8 - Blood Orange “Cupid Deluxe”







業的な成功に恵まれなかった天才が、ついに自分の居場所を見つけたという印象だ。前身のソロ・プロジェクトLightspeed Championでは巧妙な曲の構成や音作りがベールとなって彼の存在を包んでしまっていたが、Blood Orangeでは開き直った感があり全てが一貫してシンプル。テクニックや質に拘らない姿勢が彼の天性のセンスを際立たせ、あくまで自然に、彼の完成された世界観を形成している。Chairlift のボーカルCaroline Polachek やイギリスのラッパー、Skeptaといったゲストの起用も見事にハマっている。恋人たちはTシャツとジーパンを着てこの音楽を聴きながら、壊れかけたミラーボールの下で抱き合って踊るだろう。飾らないで生きる、弱い大人のためのソウル・ミュージック。






2013年12月23日月曜日

Best of 2013 #9 - Jon Hopkins “Immunity”





Jのパフォーマーとしての側面がますます強まった2013は、純粋に音楽として聴けるダンス・ミュージックを探すのに苦労した年だった。そんな中、ブライアン・イーノやコールドプレイの作品に参加したこともあるキーボ—ディスト/プロデューサーの職人芸のような作り込みが光るこの傑作は、あらゆる音楽メディアやアーティストの年間ベストリストに加えられている。ベースがとぐろのようにうねる “Open Eye Signal” “Collider” といったフロアアンセムからイーノによるフォー・テットのカバーのような “Sun Harmonics”、ピアノ・ソロからアンビエントへの美しい展開が白眉な “Abandon Window”など作風はバラエティに富みつつ、一貫してクール。四方八方に飛び散る音の粒子はぶつかり合って分裂を繰り返し、星のように広がっていく・・・それをひとつひとつ拾い上げるように、何度も聴いた。


Best of 2013 #10 - Blue Hawaii “Untogether”





年のベスト・ニューカマー。男女2人組によるエレクトロ・ユニットという肩書きは昨年ブレイクしたPurity Ringと同じだが、彼らのような即効性はなく、感情を抑制しながらじわじわとフロアを暖めていく。空間を非常に意識した作品になっており、余分な音が抜き取られたあとに残る統一された音色と囁くように歌うボーカルが心地よい。




Best Songs 2013


車やタクシーの中で音楽を聴くことが多かったこの1年。それゆえか、キャッチーでコンパクトな選曲になっています。今年は例年に増して女性アーティストの躍進が目立ったような。あとはヒップホップが国内外でかなり盛り上がり、傑作も多数あったようなのですが、全くついて行けずリストには入れておりません・・・MVPはガチガチのエレクトロにK−POPとチルウェイブをうまく取り込んだ中田ヤスタカ。アンテナの張り方はさすがだと思いました。


1. Basement Jaxx “What a Difference Your Love Makes”



2. Ciara “Body Party”



3. Sam Smith x Nile Rodgers x Disclosure x Jimmy Napes “Together”




4. Carly Rae Jepsen “Call me Maybe (Saint Pepsi Edit)”


5. Julia Holter “In The Green Wild”




6. Daft Punk “Get Lucky”




7. Kingdom “Bank Head (Feat.Kelela)”



8. Steve Arrington & Dam-Funk “Good Feeling”



9. Mount Kimbie “Made to Stray”



10. Egyptrixx “Alta Civilization”

2013年10月20日日曜日

今月の本棚

マクロ経済と証券会社




Oneohtrix Point Never - "R Plus Seven"


れまで彼の音楽の土台であったアンビエント/ドローンから大きく逸脱した問題作。それ故に評価が難しいが、斬新さという点では彼の過去作品のみならず、近年の実験音楽シーンにおいても頭ひとつ抜き出ている存在だと言えるだろう。そして何度も繰り返し聴くうちに、メロディの美しさが際立っている作品であることにも気付く。複数のインタビューを読む限り、その要因は制作手法の変化にある。これまで彼はシンセサイザーやサンプラーを使って音の実験を繰り返しながら曲を作っていたが、今作はまずピアノの前に座ってメロディとテキストを考え、パソコンでエディットするスタイルへと転換したそうだ。その結果、曲の構成は複雑に、尺はコンパクトになり、『Returnal』に代表される陶酔感は大きく後退した。

これまでの楽曲を覆っていた霧を取り払うことで、彼が持つシュールな世界観はより一層純度を増して聴き手に迫ってくる。それは時に恐怖を伴う体験だ。現代美術家のジョン・ラフマンが手がけたグロテスクな“Still Life”のミュージックビデオではこんなフレーズがこだまする——「細部に至るまではっきりと見えているが、その意味を捉えることができない」
ただ『R Plus Seven』について、言葉で表現できることは驚くほど少ない。それだけ純粋な音楽作品というわけだ。




2013年9月14日土曜日

近未来で響くブラック・ミュージック—Janelle Monae『Electric Lady』



“Tightrope”でセンセーショナルにデビューした新世代R&Bシンガーによる3年ぶりの新作。「28世紀からやってきたアンドロイド、シンディー・メイウェザー」というキャラクターを演じた前作『The ArchAndroid』のコンセプトを引き継ぎながら、よりセクシーに進化したボーカルと研ぎ澄まされたグルーヴが光る素晴らしいアルバムだ。驚くべきはその確立されたSFチックな世界観で、プリンスやエリカ・バドゥなどの豪華ゲストを加えても「未来で鳴っている音楽」という感覚が揺らぐことはない。

本作はアンドロイドの「DJクラッシュクラッシュ」が司会を務めるラジオ番組を聴いているという設定。作品の中の社会には人間とアンドロイドが暮らしているが平等ではなく、アンドロイドは人間によって抑圧されたり、嫌われたりしている。曲と曲のつなぎ目でDJクラッシュクラッシュは、人間に対する不満を露わにするアンドロイドや、アンドロイドを馬鹿にする人間の意見を紹介していく。そんな中で、アンドロイドのアイドルであり、対立ではなく平和を主張する「シンディー・メイウェザー」ことジャネル・モネイの楽曲が流れていくという感じだ。

なんの変哲もない、ありきたりな設定だと思うだろうか。本作の素晴らしさは、近未来で鳴っているBGMとして機能しながら、普遍的なブラック・ミュージックとしての強度を誇っている点にある。彼女は作品のコンセプトと、黒人の女性という自身のアイデンティティーとの関連性についていくつかのインタビューでこう語っている。「私が表現したいのは『他者』という存在。シンディー・メイウェザーは抑圧されたマイノリティーの象徴なの」

華奢で背が低く、その繊細な声も一般的なソウルシンガーのイメージとは程遠い。ジャネル・モネイのこうした特徴が、彼女の『他者』というコンプレックスに一段と拍車をかけてきたのだろう。そうした苦しみを抱えながら、『Electric Lady』では力を尽くして歌い、踊る。その圧倒的なエネルギーは、洗練された楽曲の殻を破りながら訴えかけてくる。<We are tired of the fires. Quiet no riots. We are jammin’, dancin’ and lovin’. Don’t throw no rock, don’t break no glass. Just shake your ass.

2013年9月8日日曜日

Single of the Week



最近のMark Fellは素晴らしい。
機械的な変拍子の中でかすかにうごめくGROOVE


2013年7月20日土曜日

夏に聴くアンビエント5選



1. Candy Claws “In the Deep Time”

2. Mark McGuire “Own True Orbit”

3. Deep Magic “Alone in Her Cave”

4. Bee Mask “The Story of Keys and Locks”



5. William Basinski “Nocturnes”


朝→夜みたいな順番で並べてみました。ただ、Youtubeで聴けるものがほとんどありません・・・

    

2013年6月29日土曜日

Single of the Week







ジャイルス・ピーターソンが発掘した脅威の新人プロデューサー。
素晴らしい女性ボーカルによる"Could it Be"は正式音源さえ出ていない状況(多分)で、ファースト・アルバムが待ち遠しい。夏ですね〜



2013年5月12日日曜日

Single of the Week



生演奏へと大きく舵を切り始めたサム・シェパード。まだ実験段階だが、どんな風に化けるのか、非常に楽しみな一曲。