実験主義からの脱却—Dirty Projectors"Swing Lo Magellan"
一曲目の前奏が始まった瞬間から、このバンドが既に僕の愛する、キャンプファイアーを囲んでアコギを弾きながら歌っているような若者の集まりではなくなっていることは明確だった。ペラペラだったバンド演奏は図太いプロフェッショナルなサウンドに進化。その上で、徹底的に無駄を省いたミニマリズムを追求しているのだから驚きだ。デイヴがメインボーカル、女子勢がコーラスワークという役割分担も明確化しており、もはや誰にも真似できないレベルまで複雑化している。そして何より、各曲が前作と比べて圧倒的にポップに突き抜けている。そう、彼らはついにブルックリンの実験主義者というレッテルを拭い去り、美しいポップスを鳴らすアーティストへの道を歩み始めることを選んだのだ。
この華麗なる脱却の理由を解明する最大の手がかりは歌詞に散りばめられている。「答えはある/僕はまだ見つけてない/でも、見つけるまで踊り続ける/あなたのために、踊り続ける」("Dance For You")、「僕は生き続ける」("Just From Chevron")…そう、リーダーのデイヴは時にしつこいほど自らを鼓舞し、将来がどうなろうとも自分は自分であり続けるのだということを高らかに宣言している。そのストイシズムは、アメリカという国の置かれた状況を考えれば意外なほど前向きな言葉である。ブルックリンの実験主義者たちがますますドラッグにまみれていく中、彼らは透き通った目でしっかりと現実を見据えているように思える。
総じて言えば間違いなく傑作だが、衝撃を与えた前作と比べて熟練すら感じさせる今作をどう思うかという点に関しては評価の分かれるところである。しかし、この力強い新種のポップ・ミュージックは、アメリカが、そして私たちが今もっとも必要としている音楽であると言えるだろう。
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