真面目な音楽リスナーなら、ダブステップという言葉にはもはや興味すら失ってしまっているだろう・・・なぜなら、かつてのパンクと同じようにカウンターカルチャーとして生まれたこの素晴らしい音楽が、瞬く間に世界中に広がり、消費されてしまったからだ。それは、即物的な快楽を求めるクラブカルチャーという文化、そしてその渦中にいるリスナーの罪もあるだろう。しかし、全てが終わったわけではない。これもまたパンクと同じように、カウンターカルチャーというイデオロギーに魅せられるアーティストというのは必ずどこかに存在しており、どこかで実験を繰り広げているのだ。
最近のダブステップの実験として最も耳に新鮮だった盤は、ジャケットも素晴らしいAnstamというアーティストによる2011年作『Dispel Dances』。ホラー映画のサントラにも聞こえる不穏なシンセの重なりに、重たいベースとメタリックなパーカッションが容赦なしにたたみかけてくる。まぁ・・・クラブでかかっても誰も踊らないようなダンス・ミュージックだ。とはいえ、今でこそ「ベース・ミュージック」という単純極まりない言葉で括られてしまっているダブステップも、そのサウンドはもともと「Suburb=郊外」に向けられており、万人が共感できる音楽ではなかったはずだ。Anstamはセックスと麻薬を求めて若者が集まってくるクラブハウスではなく、誰もいない夜の暴力的においが漂う路上に対して、最適のサウンドトラックを作り出した。その不穏な響きと現代的なプロダクションは優れた音楽的実験でもあると同時に、間違いなく今の空気感を表現している・・・それも、ダブステップにありがちな「孤独」や「恋愛」といったクリシェに縛られることなく。
成功もあれば失敗もある・・・ということで、ダブステップ界では絶大な人気を誇る<Night Slugs>のJam Cityというアーティストの新作『Classical Curves』を取り上げてみよう。とにかく実験的な作品で、ジャケットから用意に想像できるように、SF映画に登場するロボットや宇宙人が発する音をサンプリングして組み立てたようなサウンドだ。革新的な音だと言うことは確かに可能で、これを聴いて「ぶっ飛んだ」と言う人が出るのも想像に難くない。ただし、それは既に創造された未来を土台にした斬新な表現、つまりは手法の工夫であり、映画『第9地区』と同じように、新たなビジョンを提供するものでは決してない。つまり、10年後にも「革新的」と呼ばれる音楽にはなり得ないということだ。「シーン」を作ることはできても、歴史を作ることはできない・・・今のダブステップには、そういうアーティストが多すぎる気がする。
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