天才がなれなかったものーJustin Timberlake "The 20/20 Experience"
米国のポップ界に彗星の如く君臨してから20年という節目を迎えたジャスティンによる7年ぶり2枚目のソロ作。前作に引き続きティンバランドをプロデューサーに迎え、典型的なポップスからアフロビートまで幅広い音楽性を取り入れたアルバムになっている。ただし、何も考えずに楽しめるようなポップスではない。そう・・・ここにはジャスティンが長いキャリアでずっと抱えてきたジレンマー「優等生」すぎる才能とその限界ーが黒い影を落としている。
NSYNC時代から彼を知っている人にとっては、ジャスティンは常に「シンガー」ではなく「ダンサー」だった。それは彼が本作に先駆けてリリースしたシングル「Suit and Tie」をグラミー賞で披露した素晴らしいパフォーマンスでも明らかで、彼はステージ上で最も輝くタイプの人間だ。つまり、マイケル・ジャクソンと同じく、ポップ界に君臨するために生まれてきた人間なのである。
そんな彼が「俳優」や「コメディアン」としての顔を持つようになったのは、初のソロ作「Future Love Sex Sounds」をリリースし、音楽活動を休止してからだ。そして、実際にそれぞれの役を完璧にこなすジャスティンを見れば見るほど、彼が自身の才能をコントロールできなくなっていることが痛いほどわかるようになる。そしてこのジレンマは、「シンガー」として復帰した今回のアルバムで、表現力の欠如として姿を現すことになってしまった。
曲の完成度がここまで高いのにも関わらず、ネガティブな評価をしなければならない作品も珍しい。今作のコンセプトの中核を担っている"Suit and Tie"は近年稀に見る完璧なポップソングで、しばらくはあらゆるダンスフロアや車の中を揺らすだろう。前作とは違い生楽器を担当するバックバンドをつけたことで生まれた"Let the Groove Get In"のや"Strawberry Bubblegum"のクールなグルーヴ感も素晴らしい。それでも、ジャスティンのファルセットを効かせた恋愛やセックスについての歌は、僕のようないたって普通の人間にはとても共感できないような、人工的な匂いのするものばかりだ。
ティンバランドの野心的なプロダクションも失敗の一因だろう。7~8分という長尺の曲をたくさん作ろうというアイディアは、ピンク・フロイドやイエスにハマってた彼が提案したものらしい。しかし、ジャスティンはポップスターである。5分以上のステージでは、魔法は解けてしまうのだ。
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