2012年9月16日日曜日

ZAZEN BOYS "すとーりーず"



曲目「サイボーグのオバケ」を初めて聴いた瞬間は、「遂にここまで来たか」と拳を握りしめたのを覚えている。向井がナンバーガール解散後に受けた音楽的影響ープリンス、THA BLUE HERB、ムードマンーを完全に消化し、ファンク、ヒップホップ、ハウスをロックバンドという枠組みの中で形成するという離れ業をやってのけたと、この曲は証明していたからだ。それだけではない。落語文化にインスピレーションを受けたリリックは海外のヒップホップとは全く異なるグルーヴを生み出しており、日本でしか生まれ得ない音楽を提示していることは明らかだった。アンサンブルの密度もますます濃度を増し、一つひとつのフレーズが鮮やかに、しかし深い意味を持っているかのように繰り出される。先行リリースされている2曲目「ポテトサラダ」も同じく素晴らしい。長い年月をかけて磨き上げられた、この世で唯一の音楽だ。

だが、3曲目以降から僕の確信は徐々に揺らぎ始める。あれ…これは…ナンバーガールじゃないか…と。リリックとアンサンブルの絡みが薄れ、テクニカルなグランジ/オルタナバンドとしての側面が曲全体を占め始める。所々に面白さはあっても、僕の期待していた、ロックミュージックの更新を目指すようなコンセプトではないことが明らかになっていく。その時点で、僕は前作で感じた感動はないだろうと確信してしまったのである。アルバムの後半では、超絶技巧の「泥沼」や表題曲「すとーりーず」では前作からさらにブラッシュアップされた演奏を楽しむことができる。しかし、それだけでは今作への尋常ではない期待に応えられたとは言えないだろう。

もっとも、前作からの4年という歳月をこの作品だけで評価してしまうのは見当違いだろう。今作に関する向井のインタビューを読んでいると、彼自身が圧縮された音源というフォーマットに限界を感じているということを語っているからだ。つまり、ZAZEN BOYSの修行の成果を目の当たりにすることができるのはライブということになる。"すとーりーず"は落語と同じで、ひとつの「物語」に過ぎないのだろう。


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