血の匂いのするところには甘い恋の香りも漂っている…というのがハリウッドの築き上げてきたイメージだが、そのサウンドトラックとしてこれほど相応しい作品はないだろう。音数の少ないギター、やたらとダビーなベース、そして官能的な女性ボーカル。1時間半という長さからもうかがえる通り、明らかに映像を意識した作りである一方、バンド演奏というスタイルにもこだわっているところに、このクロマティックスという集団の美意識を垣間見ることができる。冒頭の"Into the Black"では、気怠いギターとくたびれたドラムのリズムに乗せて女は歌う:
「消えていくくらいなら燃え尽きた方がマシ
ブルーから抜け出して
ブラックに足を踏み入れる」
退廃的な空気、孤独、夜、ガソリンのにおい・・・並べられる言葉はありがちなものばかりかも知れない。しかし、それはGirlsやAriel Pinkなどが体現するドラッグとセックスにまみれた死のユースカルチャーとは異なり、あくまで画面の向こう側のイメージとして、スタイリッシュに、メタに捉えられたものだ。前半のメロディアスな楽曲も素晴らしいが、ボコーダーのかかった歌声とミュートされたギター・リフが約9分にわたって展開される”These Streets Will Never Look the Same”辺りからところどころに佇んでいた街灯もいよいよ姿を消し、主人公を完全な空虚へと誘う。それは麻酔を打たれたような感覚で、ほんの少し前まで時間はゆっくりと流れていたはずなのに、気付けばエンドロールが流れ、カーテンが上がり、作品は終わりを迎える。そして、現実に抱えるあらゆる不安や悩みを塗りつぶしてしまうほど濃厚な暗闇が消え去ってしまったことに絶えられない僕らは、もう一度、その甘い歌声に手を伸ばすことしかできないのだ。
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