2011年11月27日日曜日
Floating Points “Shadows”
ジェームス・ブレイク以降の「ダブステップ」(もはやこのジャンルは消え去ったと思うが)はダブというよりむしろ静寂がキーワードになっている。Mount Kimbieなどと並んでダブステップの代表格と謳われるFloating PointsことSamuel T Shepherdも例外ではなく、2007年の”Vacuum Boggie”で一躍有名になってからはミニマル路線にひた走ってきた印象がある。今年発売された7インチ・シングル”Danger”ではそのあまりの変化に戸惑いを隠せなかったが、この最新EP ”Shadows”ではFloating Pointsの最大の武器であるローズ・ピアノのセクシーな音色とグルーヴィなベースラインが「静寂」との結合に成功した、彼の最高傑作だと言うことができるだろう。
冒頭の”Myrtle Avenue”が全てを物語っている。控えめなシャッフル・リズムを背後にローズ・ピアノが主旋律を繰り返し、ベースがゆっくりと熱を加えていく。4分近くで最初の盛り上がりを迎えるが、その後一旦スローダウンし、また徐々に音量を上げていく。この辺りに”Vacuum Boogie”にはなかった、構成の美を感じ取ることができるだろう。
彼の引き算へのこだわりは揺らぐことなく、”Myrtle Avenue”以降もその姿勢は徹底して貫かれている。アンダーグラウンドだった「ダブステップ」がポピュラーミュージックと化し、派手なシンセと高速パーカッションで埋め尽くされるようになってしまった現在、彼のようなしたたかさを感じられる存在は貴重で、ブームと共に消え去って行くアーティストではないことは間違いない。
2011年11月26日土曜日
Nils Frahm "Felt"
今週最も聴いた作品は、ドイツの若きピアニスト/作曲家の最新作。特筆すべきは、全ての楽曲が彼が夜中に自宅で録音した即興演奏であること。彼曰く、「近所迷惑にならないように、弦の上に分厚いフェルトを敷き、かなりソフトなタッチで弾くことを意識した」そうだ。結果、まるでピアノの中から彼の演奏を聴いているような、不思議な緊張感と密度を持った傑作に仕上がった。
ピアノがミュートされているため、弦が動く音やニルズの息づかいなどの環境音が入りこみ、独特の世界観を作りあげる。楽曲もすばらしく、シガーロスを彷彿とさせる”Keep”や音量変化が見事な5分半のアンビエント”Less”などさまざまな表情を見せながらも、その変化はアルバム全体を1つの曲として捉えることができるほど自然だ。9分の大曲”More”でドラマチックに幕を閉じると、あなたはもう一度再生ボタンを押し、外界から完全に切り離された彼の美しい音世界に身を委ねてしまうだろう。
2011年11月23日水曜日
11.22.11
今日はウェブマガジンQeticの編集長から面白い話を聞くことができた。
彼女は19歳のときに、貧困に苦しむ人々へのギフトとして、20足の靴を持ってチベットに1ヶ月間ボランティアに行ったそうだ。当然、靴をもらうことができたのは20人の幸運の持ち主だけだ。
一年後、彼女は再びチベットを訪れ、衝撃を受ける。あの時靴を受け取った人とそうでない人の間で経済格差が生まれていたのだ。靴を受け取った人は経済的な豊かさを得た一方、その靴が自らの地位を証明する道具・・・つまり、唯一の財産となり、命懸けで守らなければならなくなった。
それから20年後、編集長の元に一通の手紙が届く。彼女から靴をもらったひとりの男性からだ。彼はその後アメリカの大学へ進学し、現在は脳科学者として活躍しているという。「あの靴のおかげです。本当にありがとう」手紙にはそう書いてあったそうだ。
まるでドキュメンタリーのような逸話だが、僕が何より驚いたのは、彼女がこの思い出を振り返りながら「やってよかったな」と呟いたことだった。同じような経験をした人の中には、大きな過ちを犯したと考える者もいるだろう。だが、重要なのは、彼女がこの経験を前向きに捉え、ウェブマガジンQeticを立ち上げたことだ。決断は下された。そして、少しずつ事態は変わり始めた。
レディオヘッド『イン・レインボウズ』(2007)に収録されている“レコナー”という曲を思い浮かべる。「レコナー」(reckoner)とは「最後の審判」という意味であり、この曲、そして『イン・レインボウズ』という作品には、1人ひとりが審判を下していくことによって社会が変化していくというメッセージが込められている。
僕たち1人ひとりの決断が少しずつ世界を変えていく・・・考えてみれば当たり前のことだが、そこには希望に満ちた響きがある。
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