2013年1月26日土曜日

インディ・ロック「第2派」の産声—Ducktails “The Flower Lane”



い返せば、昨年は本当に久しぶりに「ロックンロール」という言葉をネット上でよく見かけた年だった。それは単に、数年に一度、解散した大物たちが金稼ぎのために再結成する「ロックンロール・リバイバル」があったからではない。Ty SegallDirty Threeといったサイケデリックなロックバンドが力作を発表し、アメリカの若者たちの心を掴んだことが、最大の要因だろう。『KID A』で電子音楽がバンドという枠組みに応用できることが認知された2000年以降、もはや純粋なバンド・ムーヴメントは起こらないと言われていた。あれから12年が経った今。バンドシーンは再び変化の時を迎えているように思える。



2000年代後半から徐々に拡大していったDIYシーンの一角として人気を集める、米ニュージャージー州のReal Estateというインディ・バンド。Ducktailsはそのギタリストによるベッドルーム・プロジェクトだ。Stellar OM SourceJames Ferraroといった実験音楽シーンで活躍するアーティストを輩出したレーベル「Olde English Spelling Bee」からリリースされたデビュー作や、高い評価を得た2作目『Ducktails III』は一貫してローファイでドリーミー。それはDIYシーンの火付け役となったアマンダ・ブラウンのレーベル「Not Not Fun」やカセットテープのリリースでコアなファンを獲得した「Woodsist」の音楽と同様に、「ハンドメイド(手作り)である」ことが1聴してわかるようなものだった。

音楽ライターはインターネットの普及による膨大な音楽アーカイヴの誕生という歴史的背景になぞらえて、彼らの音楽を「懐古主義」と表現した。だが実際のところはもう少し単純だ。『KID A』後を生きる彼らにとって、「バンドがライブで実力をつけ、レーベルに発掘されてCDを出す」という方程式は存在しなかっただけなのである。手作りの音楽を、友人やその知人、そしてその知人に手渡しで売っていく。かつてはレーベルによってコントロールされていたツール(物流網、録音機材)が平等にアーティストにも提供されるようになったことで、それぞれのバンドにとって、地元のコミュニティはかつて無いほど重要性を増していった。その結果、DIYやカセットテープといったアナログな手段で音楽を作るバンドが増えていったのである。

ところが、最新作『The Flower Lane』はそうした「ハンドメイド感」とは一線を画す作品に仕上がっている。ローファイ度が薄まり、バンドサウンドを全面に出した楽曲が並べられているからだ。彼らの特徴だった、ベースの輪郭をぼかすことで波に揺られているような感覚を生み出す「チル・ウェイヴ」サウンドは薄れ、むしろベースが全体のグルーヴをけん引しているような楽曲が目立つ。リズム隊がボーカルの2人やシンセサウンドと美しく混ざり合う“Letter of Intent”や、アンサンブルに重点を置いた"Undercover"はその象徴のような楽曲だ。技術的に優れているバンドでは決してない。歌詞の面でも大きな心境の変化はみられないだけに、今回のサウンドの変容っぷりには驚きを隠せない。



ベッドルームからスタジオへ。”Flower Lane”を聴いていると、そんなインディ・シーンのトレンドが浮かび上がる。ローカルなコミュニティではとどまらない人気を獲得していることが、彼らを外向きのバンドへの変容を促している要因だとしたらどうだろう。Wild NothingsTame Impalaも同じような傾向の新作を発表している。新しいインディ・ロックが今、静かに産声を上げているのかも知れない。



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