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2012年7月23日月曜日

Song of the Week




界中から絶賛された前作から2年。新作に先駆け久しぶりにリリースされた新曲は、アリエル・ピンクがただのヤク中ではなく、紛れもない天才であることを証明する名曲となった。ローファイな演奏やアリエルの人を食ったようなふざけた歌い回しは相変わらずだが、ハーモニーを効果的に取り入れ、ビーチ・ボーイズさえ連想させる恐ろしく完成度の高いポップソングに仕上がっている。そのメロディもギターフレーズも一瞬にして耳を虜にする上に、きちっと3分間に収められているところに職人技を感じられずにはいられない。

しかし、ビーチ・ボーイズとの決定的な違いは、それが計算によるものなのか天性のセンスによるものなのか全くわからないところだ。なにせ、ドラッグと酒に溺れたこの倒錯者は、こんな素晴らしいポップスを作りながら、ライブでは不機嫌になって逃走したり、9.11をテーマにした意味不明な組曲を作ったりするのだから。その余りにも支離滅裂なキャラクターはしかし、USインディーシーンにとっては欠かせない存在となっている。彼をカート・コバーンに重ね合わせてしまうのも僕だけではないだろう。2000年代における「最後のカリスマ」という称号さえ遠くないとさえ思えてくる、そんな曲だ。

2012年7月15日日曜日

Lianne La Havas "Is Your Love Big Enough?"


M1"Don't Wake Me Up"が鳴った瞬間、その驚くべきボーカルのハモりに僕はジェームス・ブレイクを連想せずにはいられなかった。歌い回しはどことなくトム・ヨークに似ているし・・・控えめなアートワークとは裏腹に、R&Bの作品の導入としては実に実験的で、Corinne Bailey RaeやFeistといった女性シンガーたちとは異なる個性を持っていることを暗に示しているかのようだ。そして実際、どこか中途半端にポップで中途半端にパーソナルなコリーヌやファイストに興味を持たなかった僕のツボを見事に突いてくれた。ポスト・ダブステップのアクセントがかすかに効いたR&Bというか・・・(のちに知ったことだが、彼女はイギリスのロンドン出身で、前述したジェームス・ブレイクやレディオヘッドの大ファンに違いない)。

しかし、作品が進むにつれ、徐々に際立つようになってくるのはボーカリストとしての彼女の魅力だ。圧巻は何と言ってもM3"Lost and Found"である。ローファイなピアノ、ギターそしてドラムによる短い前奏が終わると、彼女の語りかけるようなかすれた声が部屋いっぱいに広がり、周囲の空気を一瞬にして変える。Cメロで一瞬だけメジャーコードが導入される曲の展開も秀逸で、ありがちな涙を誘う叙情的なバラードではなく、幻想的な雰囲気を持った楽曲へと仕立て上げている。飽きることなく、これから何度も聴き続けるだろう。

1989年8月23日生まれ。新人の黒人R&Bシンガーにしては決して「若い」とは言えない年齢かも知れない。ルックスもまぁ普通だし、有名なプロデューサーがバックにいるわけでも、強烈な個性を備え持っている訳ではない。しかし、ここ数年のイギリスの取っ散らかった音楽を見事に吸収しながら、その圧倒的な歌唱力を持ったまぎれもないアーティストとしての産声を上げた『Is Your Love Big Enough?』は、嬉しいサプライズとして多くの耳を虜にするだろう。



2012年7月6日金曜日

Song of the Week


tofubeats "水星 (Original mix) feat, オノマトペ大臣"


この曲と作曲者のtofubeatsを巡る壮大な物語は、同曲の特設サイトでイルリメが丁寧に解説している:
添付されたmp3の完成度と、自己紹介として書かれていた「神戸在住16歳の現役高校生」という若さのギャップから、このキャラクターを紹介し「本当にコイツは16歳か?」と顔の見えないネットラジオの中でプロレスをしかけました。するとさすが関西人らしく彼は、高校の学生証の写真とmp3を添付したメールを寄せ「本当に高校生です!」とノッてきたので、この流れがいかにも顔の見えないラジオの楽しさを感じさせ、次回でも「こんな学生証なんて信じられない」と話題にして引き続きラジオの中で盛り上がっていました。で、そんな「神戸在住16歳の現役高校生」というキャラクターに感化された人間もいたようです。それを聴いてtofubeatsという存在を知った、当時の彼と同世代の10代のクリエイター達でした。「こんな年齢でやっているやつがいるのか!」「おれもラップしてます!」そんな感じでtofubeatsのまわりに感性がつどった。それまでぽつん、ぽつんと不安げに存在していた新しい感性の点と点が嬉々と繋がり線となり、さらに線は繋がり続け、ひとつの輪郭を描いていきました。その輪郭のタッチは年月とともに深まり、やがて遠くの人からでも見えるようなほどの色濃さを見せていきます。 その輪郭の形を、遠目から見た人が、昔の人間が星座に例えたように、「あの形は熊のようだ」「いや、白鳥のようだ」と言い始めればそれは新しい歴史的なシーンの誕生です。
・・・こんな文脈を抜きにしても、ああ、この感じ—なんて懐かしいんだろう。何も考えず、ただひたすら目の前のことに熱中していたあの頃。あるいは、ネットを見ていたら一日が終わってしまったあの日。考えるより先に人を好きになってしまったり、なんとなく不安になったり。表面では強がっていても、誰かにこの気持ちを伝えたい—そんな願いを叶えてくれる存在が、あの頃の音楽だった。

この曲がかかるあらゆる場所で、あらゆる男女が出会い、手を握って、キスをする光景が目に浮かぶ。あるいは、ラップトップに向かうトラックメイカー達が、目を輝かせながらこの曲の素晴らしさについて語り合っている場面も。とにかく、誰かに会いたくなる曲だ。夜が明ければその感情は跡形もなく消え去り、それぞれの日常へ帰って行くだろう。だがその儚さこそが青春の魔法。どれだけ世の中が便利になろうと、夢や、恋や、バカな無駄話はなくならない。むせかえるほど過剰にかかったオートチューンとチープなシンセ音に乗せて、この曲は、毎晩のように魔法をかける。全ての若い男女に捧げる名曲。




2012年6月20日水曜日

細胞で感じるダブ—Moritz Von Oswald Trio



ニマル界のバトルスとでも言おうか。なにせ、モーリッツ・フォン・ オズワルド(ベーシック・チャンネル, リズム&サウンド)、マックス・ローダーバウアー(サン・エレクトリック, NSI)、ヴラディスラフ・ディレイ(LUOMO, Uusitalo)という、ジャーマン・エレクトロニカの大御所を集めたスーパーグループだ。まぁ、そんなことはどうでもいい・・・なぜなら、彼らはその肩書きに恥じることなく刺激的な音楽を鳴らし、「ミニマル・ダブ」という未開のジャンルをダンスフロアにまで持って行ったからだ。最大の魅力は、聞き手を飽きさせない音色を生み出す創造性と、生演奏であることを強く意識させる独特のグルーヴを携えた「バンド」であるところだ。電子音楽、特にミニマル・ミュージックの分野で彼らのようなバンド感を持ったアーティストは希有で・・・というよりそんなことをできるのが彼らぐらいなのだろう。

どの作品も素晴らしいが、ダビーなベース、トライバルなパーカッション、そしてグリッチ音が縦横無尽に交差するデビュー盤『Vertical Ascent』のクールな熱情は、雑踏や台風のやかましいノイズを消し去ってくれるだろう。身体ではなく、そのさらに奥。細胞で感じるダブ—それがモーリッツ・フォン・オズワルド・トリオだ。






2012年6月16日土曜日

6月のプレイリスト

1. Fiona Apple "Every Single Night"


2. Hot Chip "Motion Sickness"

3. Bobby Womack "If There Wasn't Something There"

4. Grizzly Bear "Sleeping Ute"

5. Here We Go Magic "Only Places"

6. Peaking Lights "Cosmic Tides"


7. DJ Rashad "Over Ya Head (with DJ Manny)"




忙しい時に効く音楽は何と言っても「ソング」だ・・・という訳で、今月はアンビエントやダブステップから遠ざかり、インディー・ロックやポップの新曲を良く聴いた。中でもFiona Appleの久しぶりのシングルは曲の構成力、気の利いたアレンジ、そしてだだ漏れのエモーションが素晴らしく、若手ボーカルとの格の違いを見せつけた。注目のローファイ・ダブ・デュオ、Peaking Lightsの新作も、意外なほどトリッピーな傑作だった。

他にもLaurel Halo とかSubmotion Orchestraとか聴いたけど、所詮は『Kid A』の呪縛から逃れられない可哀想な子供たち・・・という印象。そういえば、日本のバンドシーンて今どうなってるんですかね。笑





2012年5月2日水曜日

April Playlist


1. Robert Glasper “Cherish the Day”

2. Robag Wruhme “Thora Vukk” 


3. Frank Ocean “Swim Good”


4. Betty Wright “In The Middle Of The Game” 


5. Chromatics “These Streets Will Never Look the Same”


6. Spiritualized “I Am What I Am”


7. Radiohead “Identikit”


8. Beach House “Lazuli”


9. Dr. Dre “Let Me Ride”


10. Santigold “Big Mouth”



に向けてロックバンドの再結成(マイブラ、ストーン・ローゼズ、ビーチ・ボーイズ等々)やアルバムのリイシューが次々とアナウンスされ盛り上がっているが、「今」の音楽はむしろ彼らの栄光を遠ざけるように細分化/発展を続けており、僕としてはそっちを追いかけている方が100倍楽しい。今月はヒップ・ホップとR&Bに大分遅れを取りながらも、ブラック・ミュージックとしてのジャズをアップデートさせたロバート・グラスパーという才能に出会い、スピリチュアライズドの新作におけるギター・ノイズの応酬に心を震わせ(当分はヴェルヴェット・アンダーグラウンドを聴く必要はないだろう)、Actressのしたたかなアンビエンスに息を呑んだ。そして何より、あまりに大人な恋愛小説『The Marriage Plot』を読んだことで、人間関係に対する考え方をなんとなく見直しつつある。今月は待ちに待った巨匠・ペドロ・アルモドバル監督の新作『私が、生きる肌』が公開。これはもう・・・やばいでしょ。




2012年4月27日金曜日

Chromatics "Kill For Love"





の匂いのするところには甘い恋の香りも漂っている…というのがハリウッドの築き上げてきたイメージだが、そのサウンドトラックとしてこれほど相応しい作品はないだろう。音数の少ないギター、やたらとダビーなベース、そして官能的な女性ボーカル。1時間半という長さからもうかがえる通り、明らかに映像を意識した作りである一方、バンド演奏というスタイルにもこだわっているところに、このクロマティックスという集団の美意識を垣間見ることができる。冒頭の"Into the Black"では、気怠いギターとくたびれたドラムのリズムに乗せて女は歌う:




「消えていくくらいなら燃え尽きた方がマシ
ブルーから抜け出して
ブラックに足を踏み入れる」




退廃的な空気、孤独、夜、ガソリンのにおい・・・並べられる言葉はありがちなものばかりかも知れない。しかし、それはGirlsやAriel Pinkなどが体現するドラッグとセックスにまみれた死のユースカルチャーとは異なり、あくまで画面の向こう側のイメージとして、スタイリッシュに、メタに捉えられたものだ。前半のメロディアスな楽曲も素晴らしいが、ボコーダーのかかった歌声とミュートされたギター・リフが約9分にわたって展開される”These Streets Will Never Look the Same”辺りからところどころに佇んでいた街灯もいよいよ姿を消し、主人公を完全な空虚へと誘う。それは麻酔を打たれたような感覚で、ほんの少し前まで時間はゆっくりと流れていたはずなのに、気付けばエンドロールが流れ、カーテンが上がり、作品は終わりを迎える。そして、現実に抱えるあらゆる不安や悩みを塗りつぶしてしまうほど濃厚な暗闇が消え去ってしまったことに絶えられない僕らは、もう一度、その甘い歌声に手を伸ばすことしかできないのだ。









2012年4月8日日曜日

Lone “Galaxy Garden”



前作『Emerald Fantasy Tracks』のアートワークと見比べてみれば、LoneことMatt Cutlerが今作で示している音楽的方向性の変化は明らかだろう。要するに、海から宇宙へ・・・あるいは昼から夜へとその舞台を変えている。もっとも、これは最近のシーン全体に見られる傾向で、「チルウェイヴ=海」というイメージを作り上げたWashed Outは寝室へ、Toro Y Moiもダンスフロアへとそれぞれの道を歩み始めている。霧のように楽曲を覆っていたリバーブが薄れ、よりしっかりとした、シンプルな音が今のチルウェイヴの主流である。それはもはや、ノスタルジアを表現する場として、時代の最先端を走るダンス・ミュージックというフォーマットが相応しくないということなのかも知れない。

したがって、リバーブの効いた、陽気なLoneが好きだったファンにとっては、がっかりする内容になっているかも知れない。また、宇宙的=コズミックと呼ばれる音楽が持つスピード感や陶酔感という点では、依然からその方面で人気を博しているフライング・ロータスやハドソン・モホークに軍配があがることは否めないだろう。それでも、彼の卓越したメロディセンスはやはり何物にも代え難く、幾重にも重なるシンセのメロディが4つ打ちのビートと絶妙に絡み合う”Lying in the Reeds”は前作のハイライト”Aquamarine”の進化形とも言うべき、洗練されたダンス・ミュージックだ。まぁ、彼は今後もコロコロと方向性を変えて、リスナーを煙に巻くのだろう・・・だがその未熟さこそが、このシーンが持つかけがえのない魅力にもなっていることは確かだ。将来なんて、想像するだけ無駄なんだから。


2012年1月13日金曜日

January 2012 Playlist Vol.1




1. Dirty Projectors “Rise Above”

2. The Avalanches “Since I Left You (Cornelius Remix)”

3. Perfume “575”

4. Hype Williams “Unfaithful”

5. OGRE YOU ASSHOLE “同じ考えの4人” 

6. DJ Gantman, DJ Rashad “Heaven Sent”

7. Aoki Takamasa + Tujiko Noriko “Vinyl Words”

8. Moritz Von Oswald Trio “Structure 2”

9. Georgia Anne Muldrow "Seeds" (prod. by Madlib)

10. Pulling Horses “Russet Calls”


                                                  


年明けの活き活きした感じはまるでなく、ひたすら耳に優しい音楽だけを聴く毎日。6は<プラネット・ミュー>のコンピレーション盤『Bangs & Works Vol.2』収録。8は是非アルバム『Horizontal Structures』を丸ごと聴いていただきたい。傑作。

2011年12月30日金曜日

Best of 2011 - Best Tracks

1. Radiohead “Staircase”


2. Cass McCombs “County Line”

3. Gang Gang Dance “Glass Jar”


4. Toro y Moi “I Can Get Love”

5. Beyonce “1+1”


6. Atlas Sound “Terra Incognita”

7. The Rapture “How Deep is Your Love?”

8. 二階堂和美 “女はつらいよ”

9. Thundercat “Daylight”


10. Egyptrixx “Recital (A Version)”

11. salyu×salyu “続きを”

12. Wild Beasts “Albatross”


13. Fleet Foxes “Helplessness Blues”


14. Frank Ocean “Novacane”

15. Ford & Lopatin “New Planet”

16. Todd Terje “Snooze 4 Love”

17. Talib Qweli “Wait For You”

18. Four Tet “Pyramid”

19. Burial “NYC”

20. Wilco “One Sunday Morning”


2,6,13はカントリー/フォークの傑作。
5は今年最高のポップソングで、ビヨンセの最高傑作かも。
9はライブ・バージョンが最高。
12は音の抜き方が素晴らしいと思った。
14は世界的にヒットした若者向けR&B。
15の冒頭30秒間は今年最高のトリップ。
17は今年一番の実力派ヒップホップ。大好きな6th senseがプロデュース。
7,10は飲み会の前に。16,18,19は帰り道に。
8は何かあった時に。20は何も予定がない日の朝に。

Best of 2011 #2 - 二階堂和美 "にじみ"



安藤裕子が昨年『J POP』というアルバムを出していたが、僕にとってはこのアルバムこそがJ POPだ。つまり、それは女の歌謡曲である。それは、この国の大衆音楽自体が後ろ向きなものであることを意味するが、プライベートで何かあったときに帰るべき場所がきちんと用意されているという点では、ああ日本人男子でよかったと思うこともある。そんな僕にとって"にじみ"における二階堂和美の歌は「帰るべき場所」の役割を見事に果たしてくれていて、あの時告白しなかったことを悔やむ主婦も(“女はつらいよ”)これから始まる恋に焦がれる少女も(“あなたと歩くの”)、自由自在に表現できてしまうその才能には脱帽。


Best of 2011 #3 - 少女時代 “Girls Generation”



K-POPの実力を証明した一枚。彼女たちの楽曲や洗練されたダンスを見ていると、アメリカでバックストリート・ボーイズやデステニーズ・チャイルドが流行していた時代を思い出す。そこには、パソコンの画面上…つまり、インターネット産業へと委託され、個々の実力よりも音楽/広告/ファッション業界から提案される斬新なアイディアが評価される現在のポップスからは失われてしまった、プロのアーティストとしてのメンタリティーがあった。だから、素人アイドルに金をつぎ込む日本人に背を向けて、「本国」アメリカへと進出することを選んだのもよくわかる。「雑魚に興味はない」というスタンス、そしてそう言えるために血のにじむ努力を繰り返す姿には、感動を覚えずにはいられない。


Best of 2011 #4 - Toro y Moi “Freaking Out EP”



チルウェイヴについてひとこと言わせてもらうと、それは音楽性よりも制作される環境によって定義されると考えるべきだろう。すなわち、演奏者としての経験が少なくリスナーとしては経験豊富な若者が、音楽ソフトを使ってリバーブとコンプレッサーを過剰にかけた宅録音楽だ。音楽的に見れば驚くほど素人くさい作品が多いが、それは元々AKB48が素人の集まりだったのと同じで、いつの間にか視界から消えてしまった「大衆音楽」の揺り戻しだと言えよう。だから、ウォッシュド・アウトとトロ・イ・モアというこのジャンルを代表する2人がある程度の商業的な成功を収め、大規模なライブや金のかかったプロダクションを経験することで、(AKB48のコンセプトと同じように)チルウェイヴの消滅は必然的なものになった。実際のところ、2011年の最後の3ヶ月くらいはもうほとんど「チルウェイヴ」という単語を目にすることもなくなった。
故に、トロ・イ・モアのこのミニ・アルバムは、おそらくチルウェイヴ最後の傑作だ。このジャンルを確立させた2010年の名盤『Causes of This』にミラーボールを放り込んだようなサウンドで、あなたはその目にも止まらぬスピードで入っては消えていく音の数々にただ身を任せるだけでいい。洗練されたポップスへと接近していったウォッシュド・アウトの2作目『ウィズイン・アンド・ウィズアウト』とは対照的に、走馬燈のように消えていく思春期の記憶を呼び起こすことができるだろう。まぁつまり、この時代におけるロックンロール・・・というのは言い過ぎだろうか。いずれにせよ、これはチルウェイブという甘い夢に対する、あまりにもロマンティックな鎮魂歌。



2011年12月28日水曜日

Best of 2011 #5 - Madlib “Medicine Show No. 12 : Raw Medicine (Madlib Remixes)”



現代における新しい音楽との出会い方として、ヒップホップのトラックでサンプリングされた曲をネットで検索するという手法がある。この作業をもっとも楽しむことができるのが、4トンものヴァイナルを所有しているという稀代のクレイト・ディガー=マッドリブが様々なテーマで編集したミックステープを12回にわたってリリースするというプロジェクト”Medicine Show ”だ。最終作となる”Raw Medicine (Madlib Remixes)”ではヒップホップを中心にセレクト。12作全てを聴いたわけではないが、個人的には昨年の” #10: Black Soul”に次ぐ傑作で、相変わらず中毒性のあるスモーキーなミックスが冴え渡る。このシリーズがなければ出会わなかったであろう素晴らしいアーティストを発見することができて、この時代を生きていることに心から感謝。


Best of 2011 #6 - Panda Bear “Tomboy”



個人的には彼の出世作となったPerson Pitchのみならず、Animal Collectiveの作品も含めて最も好きなアルバムとなった。それは、彼がサンプリングのコラージュから距離を置き、歌とギターを中心とした伝統的なソングライティングへとシフトことで、演奏者/作曲家としての魅力を際立たせることができたからに他ならない。そこにプロデュースを担当したソニック・ブームの淡いサイケデリアを塗せば、儚くも中毒性の高いループ・ミュージックの完成だ。 パンダ・ベアの天まで届きそうなほど透明な声と、地下室に籠って制作されたという本作を覆う不穏な空気感は不思議とマッチし、世の中の激動とは裏腹に平和な日常を過ごしていた僕の心にするりと入り込んだ。どの曲も良いが、ミニマル・ドローンとボーカルが祈りのように消えていく最終曲“Benfica”には完全にノックアウト。





2011年12月27日火曜日

Best of 2011 #7 - salyu×salyu “s(o)un(d)beams”


彼女が念頭に置いて小山田圭吾にプロデュースを依頼したと語る「クロッシング・ハーモニー」(詳しくは彼女のインタビューを参照して欲しい)というコンセプトが実現できたかどうかは別として、日本の女性ポップシンガーにしては近年稀に見る野心的な試みであったことは間違いない。完璧主義(だと思う)な彼女にとって「声」以外の殆どのパートを他者に委託するという決断は簡単ではなかったはずだが、坂本慎太郎氏の作詞を筆頭に多彩な才能が加わったことで、良い意味で力の抜けた作品となった。サリュの力強いハーモニーとコーネリアス節全開のミニマリズムに圧倒される前半も素晴らしいが、最後に収録された“続きを”の普遍的なポップネスは特別な響きを持って3.11後の僕の心を揺らした。

2011年12月25日日曜日

Best of 2011 #8 - Gang Gang Dance "Eye Contact"


ブルックリンのノイズ・シーンから出てきた彼らがここまでポップで構成力のあるアルバムを作れるとは、一体誰が予想しただろう。前作『セイント・ ディンフナ』('08)はクリエイティブな作品だったが統一感に欠け、実験音楽の域を超えることはなかった。それに比べて今作は即興的な要素を減らし、より綿密に練られたソングライティングへとシフト(”4AD Sessions”でのスタジオ・ライブを見る限り、キーボードやサンプラーを操るブライアン・デグロウの素晴らしいプレイを軸に、多くの曲はほぼ完璧に再現されていた)。特に、何重にも織り込まれたデグロウのシンセにタメの効いたドラムソロが加わって盛大に幕を開ける"glass jar"は11分という長さを感じさせないほどトリッピーで、間違いなく今年のベストトラックのひとつ。乱反射し続ける光の中で踊り続けよう。

2011年12月17日土曜日

Best of 2011 #9 - Oorutaichi “Cosmic Coco, Singing for a Billion Imu's Hearty Pi”



アメリカやヨーロッパのアーティストが宇宙をテーマにした音楽を作ると多くの場合それは神秘的で絶対的な存在として解釈されるが、日本のアーティストにとっては奇妙な生き物のような感覚なのではないだろうか・・・このユニークなアヴァンギャルド・ポップスを聴いていると、そんなことを考える。オオルタイチ3年ぶりのアルバムはグリッチ音やピッチの高いシンセを多用した前作に比べてエレクトロニカの要素を強め、作品として聴きやすくなった印象。それでも危なっかしさやテンションの高さは全く損なわれておらず、ギリギリのポップスとして見事な完成度とオリジナリティを誇っている。ボアダムスのEyヨとフライング・ロータスの盟友ダーデラスという、全く異なるシーンに属する2人がリミックスに参加しているということが、その事実を何より証明しているだろう。同じ方向を向いているアニマル・コレクティブの何倍も面白く、セクシーで、尖ってる。





Best of 2011 #10 - Thundercat "The Golden Age of Apocalypse"




フライング・ロータスが主宰する<ブレインフィーダー>からリリースされた、エリカ・バドゥのバックなどを務めるベーシストのソロ・デビューアルバム。<ブレインフィーダー>はプロフェッショナルなミュージシャンと革新的なアイディアを持った若いビートメーカーがクロスオーバーする素晴らしいレーベルで、今作はその最良の成果のひとつと言える。後半の失速感は否めないが、怒濤の勢いで駆け抜ける”Daylight”から”For Love I Come”までの流れは白眉の出来。Thundercatの超高速ベースソロはもちろん、オースティン・ペラルタ(key)のファンキーなプレイも素晴らしい。音楽的にはフュージョンやジャズに分類されるだろうが、それでも古さを全く感じさせないのはフライング・ロータスのシャープなプロダクションによるところが大きいだろう。その名の通り、黄金時代の到来を予感させる一枚。


2011年12月7日水曜日

James Blake "Love What Happened Here"




ジェイムス・ブレイク、12月11日発売の新EP『Love What Happened Here』からタイトル曲がリーク。これは久しぶりのヒット。4小節のフレーズを5分半繰り返しているのに、ここまで聴かせることができるアーティストはなかなかいないですよね。