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2012年7月23日月曜日

Song of the Week




世界中から絶賛された前作から2年。新作に先駆け久しぶりにリリースされた新曲は、アリエル・ピンクがただのヤク中ではなく、紛れもない天才であることを証明する名曲となった。ローファイな演奏やアリエルの人を食ったようなふざけた歌い回しは相変わらずだが、ハーモニーを効果的に取り入れ、ビーチ・ボーイズさえ連想させる恐ろしく完成度の高いポップソングに仕上がっている。そのメロディもギターフレーズも一瞬にして耳を虜にする上に、きちっと3分間に収められているところに職人技を感じられずにはいられない。

しかし、ビーチ・ボーイズとの決定的な違いは、それが計算によるものなのか天性のセンスによるものなのか全くわからないところだ。なにせ、ドラッグと酒に溺れたこの倒錯者は、こんな素晴らしいポップスを作りながら、ライブでは不機嫌になって逃走したり、9.11をテーマにした意味不明な組曲を作ったりするのだから。その余りにも支離滅裂なキャラクターはしかし、USインディーシーンにとっては欠かせない存在となっている。彼をカート・コバーンに重ね合わせてしまうのも僕だけではないだろう。2000年代における「最後のカリスマ」という称号さえ遠くないとさえ思えてくる、そんな曲だ。

2012年7月15日日曜日

Lianne La Havas "Is Your Love Big Enough?"


M1"Don't Wake Me Up"が鳴った瞬間、その驚くべきボーカルのハモりに僕はジェームス・ブレイクを連想せずにはいられなかった。歌い回しはどことなくトム・ヨークに似ているし・・・控えめなアートワークとは裏腹に、R&Bの作品の導入としては実に実験的で、Corinne Bailey RaeやFeistといった女性シンガーたちとは異なる個性を持っていることを暗に示しているかのようだ。そして実際、どこか中途半端にポップで中途半端にパーソナルなコリーヌやファイストに興味を持たなかった僕のツボを見事に突いてくれた。ポスト・ダブステップのアクセントがかすかに効いたR&Bというか・・・(のちに知ったことだが、彼女はイギリスのロンドン出身で、前述したジェームス・ブレイクやレディオヘッドの大ファンに違いない)。

しかし、作品が進むにつれ、徐々に際立つようになってくるのはボーカリストとしての彼女の魅力だ。圧巻は何と言ってもM3"Lost and Found"である。ローファイなピアノ、ギターそしてドラムによる短い前奏が終わると、彼女の語りかけるようなかすれた声が部屋いっぱいに広がり、周囲の空気を一瞬にして変える。Cメロで一瞬だけメジャーコードが導入される曲の展開も秀逸で、ありがちな涙を誘う叙情的なバラードではなく、幻想的な雰囲気を持った楽曲へと仕立て上げている。飽きることなく、これから何度も聴き続けるだろう。

1989年8月23日生まれ。新人の黒人R&Bシンガーにしては決して「若い」とは言えない年齢かも知れない。ルックスもまぁ普通だし、有名なプロデューサーがバックにいるわけでも、強烈な個性を備え持っている訳ではない。しかし、ここ数年のイギリスの取っ散らかった音楽を見事に吸収しながら、その圧倒的な歌唱力を持ったまぎれもないアーティストとしての産声を上げた『Is Your Love Big Enough?』は、嬉しいサプライズとして多くの耳を虜にするだろう。



2012年6月20日水曜日

細胞で感じるダブ—Moritz Von Oswald Trio



ミニマル界のバトルスとでも言おうか。なにせ、モーリッツ・フォン・ オズワルド(ベーシック・チャンネル, リズム&サウンド)、マックス・ローダーバウアー(サン・エレクトリック, NSI)、ヴラディスラフ・ディレイ(LUOMO, Uusitalo)という、ジャーマン・エレクトロニカの大御所を集めたスーパーグループだ。まぁ、そんなことはどうでもいい・・・なぜなら、彼らはその肩書きに恥じることなく刺激的な音楽を鳴らし、「ミニマル・ダブ」という未開のジャンルをダンスフロアにまで持って行ったからだ。最大の魅力は、聞き手を飽きさせない音色を生み出す創造性と、生演奏であることを強く意識させる独特のグルーヴを携えた「バンド」であるところだ。電子音楽、特にミニマル・ミュージックの分野で彼らのようなバンド感を持ったアーティストは希有で・・・というよりそんなことをできるのが彼らぐらいなのだろう。

どの作品も素晴らしいが、ダビーなベース、トライバルなパーカッション、そしてグリッチ音が縦横無尽に交差するデビュー盤『Vertical Ascent』のクールな熱情は、雑踏や台風のやかましいノイズを消し去ってくれるだろう。身体ではなく、そのさらに奥。細胞で感じるダブ—それがモーリッツ・フォン・オズワルド・トリオだ。






2012年4月27日金曜日

Chromatics "Kill For Love"





血の匂いのするところには甘い恋の香りも漂っている…というのがハリウッドの築き上げてきたイメージだが、そのサウンドトラックとしてこれほど相応しい作品はないだろう。音数の少ないギター、やたらとダビーなベース、そして官能的な女性ボーカル。1時間半という長さからもうかがえる通り、明らかに映像を意識した作りである一方、バンド演奏というスタイルにもこだわっているところに、このクロマティックスという集団の美意識を垣間見ることができる。冒頭の"Into the Black"では、気怠いギターとくたびれたドラムのリズムに乗せて女は歌う:




「消えていくくらいなら燃え尽きた方がマシ
ブルーから抜け出して
ブラックに足を踏み入れる」




退廃的な空気、孤独、夜、ガソリンのにおい・・・並べられる言葉はありがちなものばかりかも知れない。しかし、それはGirlsやAriel Pinkなどが体現するドラッグとセックスにまみれた死のユースカルチャーとは異なり、あくまで画面の向こう側のイメージとして、スタイリッシュに、メタに捉えられたものだ。前半のメロディアスな楽曲も素晴らしいが、ボコーダーのかかった歌声とミュートされたギター・リフが約9分にわたって展開される”These Streets Will Never Look the Same”辺りからところどころに佇んでいた街灯もいよいよ姿を消し、主人公を完全な空虚へと誘う。それは麻酔を打たれたような感覚で、ほんの少し前まで時間はゆっくりと流れていたはずなのに、気付けばエンドロールが流れ、カーテンが上がり、作品は終わりを迎える。そして、現実に抱えるあらゆる不安や悩みを塗りつぶしてしまうほど濃厚な暗闇が消え去ってしまったことに絶えられない僕らは、もう一度、その甘い歌声に手を伸ばすことしかできないのだ。









2012年4月8日日曜日

Lone “Galaxy Garden”



前作『Emerald Fantasy Tracks』のアートワークと見比べてみれば、LoneことMatt Cutlerが今作で示している音楽的方向性の変化は明らかだろう。要するに、海から宇宙へ・・・あるいは昼から夜へとその舞台を変えている。もっとも、これは最近のシーン全体に見られる傾向で、「チルウェイヴ=海」というイメージを作り上げたWashed Outは寝室へ、Toro Y Moiもダンスフロアへとそれぞれの道を歩み始めている。霧のように楽曲を覆っていたリバーブが薄れ、よりしっかりとした、シンプルな音が今のチルウェイヴの主流である。それはもはや、ノスタルジアを表現する場として、時代の最先端を走るダンス・ミュージックというフォーマットが相応しくないということなのかも知れない。

したがって、リバーブの効いた、陽気なLoneが好きだったファンにとっては、がっかりする内容になっているかも知れない。また、宇宙的=コズミックと呼ばれる音楽が持つスピード感や陶酔感という点では、依然からその方面で人気を博しているフライング・ロータスやハドソン・モホークに軍配があがることは否めないだろう。それでも、彼の卓越したメロディセンスはやはり何物にも代え難く、幾重にも重なるシンセのメロディが4つ打ちのビートと絶妙に絡み合う”Lying in the Reeds”は前作のハイライト”Aquamarine”の進化形とも言うべき、洗練されたダンス・ミュージックだ。まぁ、彼は今後もコロコロと方向性を変えて、リスナーを煙に巻くのだろう・・・だがその未熟さこそが、このシーンが持つかけがえのない魅力にもなっていることは確かだ。将来なんて、想像するだけ無駄なんだから。


2011年12月30日金曜日

Best of 2011 #2 - 二階堂和美 "にじみ"



安藤裕子が昨年『J POP』というアルバムを出していたが、僕にとってはこのアルバムこそがJ POPだ。つまり、それは女の歌謡曲である。それは、この国の大衆音楽自体が後ろ向きなものであることを意味するが、プライベートで何かあったときに帰るべき場所がきちんと用意されているという点では、ああ日本人男子でよかったと思うこともある。そんな僕にとって"にじみ"における二階堂和美の歌は「帰るべき場所」の役割を見事に果たしてくれていて、あの時告白しなかったことを悔やむ主婦も(“女はつらいよ”)これから始まる恋に焦がれる少女も(“あなたと歩くの”)、自由自在に表現できてしまうその才能には脱帽。


Best of 2011 #3 - 少女時代 “Girls Generation”



K-POPの実力を証明した一枚。彼女たちの楽曲や洗練されたダンスを見ていると、アメリカでバックストリート・ボーイズやデステニーズ・チャイルドが流行していた時代を思い出す。そこには、パソコンの画面上…つまり、インターネット産業へと委託され、個々の実力よりも音楽/広告/ファッション業界から提案される斬新なアイディアが評価される現在のポップスからは失われてしまった、プロのアーティストとしてのメンタリティーがあった。だから、素人アイドルに金をつぎ込む日本人に背を向けて、「本国」アメリカへと進出することを選んだのもよくわかる。「雑魚に興味はない」というスタンス、そしてそう言えるために血のにじむ努力を繰り返す姿には、感動を覚えずにはいられない。


Best of 2011 #4 - Toro y Moi “Freaking Out EP”



チルウェイヴについてひとこと言わせてもらうと、それは音楽性よりも制作される環境によって定義されると考えるべきだろう。すなわち、演奏者としての経験が少なくリスナーとしては経験豊富な若者が、音楽ソフトを使ってリバーブとコンプレッサーを過剰にかけた宅録音楽だ。音楽的に見れば驚くほど素人くさい作品が多いが、それは元々AKB48が素人の集まりだったのと同じで、いつの間にか視界から消えてしまった「大衆音楽」の揺り戻しだと言えよう。だから、ウォッシュド・アウトとトロ・イ・モアというこのジャンルを代表する2人がある程度の商業的な成功を収め、大規模なライブや金のかかったプロダクションを経験することで、(AKB48のコンセプトと同じように)チルウェイヴの消滅は必然的なものになった。実際のところ、2011年の最後の3ヶ月くらいはもうほとんど「チルウェイヴ」という単語を目にすることもなくなった。
故に、トロ・イ・モアのこのミニ・アルバムは、おそらくチルウェイヴ最後の傑作だ。このジャンルを確立させた2010年の名盤『Causes of This』にミラーボールを放り込んだようなサウンドで、あなたはその目にも止まらぬスピードで入っては消えていく音の数々にただ身を任せるだけでいい。洗練されたポップスへと接近していったウォッシュド・アウトの2作目『ウィズイン・アンド・ウィズアウト』とは対照的に、走馬燈のように消えていく思春期の記憶を呼び起こすことができるだろう。まぁつまり、この時代におけるロックンロール・・・というのは言い過ぎだろうか。いずれにせよ、これはチルウェイブという甘い夢に対する、あまりにもロマンティックな鎮魂歌。



2011年12月28日水曜日

Best of 2011 #5 - Madlib “Medicine Show No. 12 : Raw Medicine (Madlib Remixes)”



現代における新しい音楽との出会い方として、ヒップホップのトラックでサンプリングされた曲をネットで検索するという手法がある。この作業をもっとも楽しむことができるのが、4トンものヴァイナルを所有しているという稀代のクレイト・ディガー=マッドリブが様々なテーマで編集したミックステープを12回にわたってリリースするというプロジェクト”Medicine Show ”だ。最終作となる”Raw Medicine (Madlib Remixes)”ではヒップホップを中心にセレクト。12作全てを聴いたわけではないが、個人的には昨年の” #10: Black Soul”に次ぐ傑作で、相変わらず中毒性のあるスモーキーなミックスが冴え渡る。このシリーズがなければ出会わなかったであろう素晴らしいアーティストを発見することができて、この時代を生きていることに心から感謝。


Best of 2011 #6 - Panda Bear “Tomboy”



個人的には彼の出世作となったPerson Pitchのみならず、Animal Collectiveの作品も含めて最も好きなアルバムとなった。それは、彼がサンプリングのコラージュから距離を置き、歌とギターを中心とした伝統的なソングライティングへとシフトことで、演奏者/作曲家としての魅力を際立たせることができたからに他ならない。そこにプロデュースを担当したソニック・ブームの淡いサイケデリアを塗せば、儚くも中毒性の高いループ・ミュージックの完成だ。 パンダ・ベアの天まで届きそうなほど透明な声と、地下室に籠って制作されたという本作を覆う不穏な空気感は不思議とマッチし、世の中の激動とは裏腹に平和な日常を過ごしていた僕の心にするりと入り込んだ。どの曲も良いが、ミニマル・ドローンとボーカルが祈りのように消えていく最終曲“Benfica”には完全にノックアウト。





2011年12月27日火曜日

Best of 2011 #7 - salyu×salyu “s(o)un(d)beams”


彼女が念頭に置いて小山田圭吾にプロデュースを依頼したと語る「クロッシング・ハーモニー」(詳しくは彼女のインタビューを参照して欲しい)というコンセプトが実現できたかどうかは別として、日本の女性ポップシンガーにしては近年稀に見る野心的な試みであったことは間違いない。完璧主義(だと思う)な彼女にとって「声」以外の殆どのパートを他者に委託するという決断は簡単ではなかったはずだが、坂本慎太郎氏の作詞を筆頭に多彩な才能が加わったことで、良い意味で力の抜けた作品となった。サリュの力強いハーモニーとコーネリアス節全開のミニマリズムに圧倒される前半も素晴らしいが、最後に収録された“続きを”の普遍的なポップネスは特別な響きを持って3.11後の僕の心を揺らした。

2011年12月25日日曜日

Best of 2011 #8 - Gang Gang Dance "Eye Contact"


ブルックリンのノイズ・シーンから出てきた彼らがここまでポップで構成力のあるアルバムを作れるとは、一体誰が予想しただろう。前作『セイント・ ディンフナ』('08)はクリエイティブな作品だったが統一感に欠け、実験音楽の域を超えることはなかった。それに比べて今作は即興的な要素を減らし、より綿密に練られたソングライティングへとシフト(”4AD Sessions”でのスタジオ・ライブを見る限り、キーボードやサンプラーを操るブライアン・デグロウの素晴らしいプレイを軸に、多くの曲はほぼ完璧に再現されていた)。特に、何重にも織り込まれたデグロウのシンセにタメの効いたドラムソロが加わって盛大に幕を開ける"glass jar"は11分という長さを感じさせないほどトリッピーで、間違いなく今年のベストトラックのひとつ。乱反射し続ける光の中で踊り続けよう。

2011年12月17日土曜日

Best of 2011 #9 - Oorutaichi “Cosmic Coco, Singing for a Billion Imu's Hearty Pi”



アメリカやヨーロッパのアーティストが宇宙をテーマにした音楽を作ると多くの場合それは神秘的で絶対的な存在として解釈されるが、日本のアーティストにとっては奇妙な生き物のような感覚なのではないだろうか・・・このユニークなアヴァンギャルド・ポップスを聴いていると、そんなことを考える。オオルタイチ3年ぶりのアルバムはグリッチ音やピッチの高いシンセを多用した前作に比べてエレクトロニカの要素を強め、作品として聴きやすくなった印象。それでも危なっかしさやテンションの高さは全く損なわれておらず、ギリギリのポップスとして見事な完成度とオリジナリティを誇っている。ボアダムスのEyヨとフライング・ロータスの盟友ダーデラスという、全く異なるシーンに属する2人がリミックスに参加しているということが、その事実を何より証明しているだろう。同じ方向を向いているアニマル・コレクティブの何倍も面白く、セクシーで、尖ってる。





Best of 2011 #10 - Thundercat "The Golden Age of Apocalypse"




フライング・ロータスが主宰する<ブレインフィーダー>からリリースされた、エリカ・バドゥのバックなどを務めるベーシストのソロ・デビューアルバム。<ブレインフィーダー>はプロフェッショナルなミュージシャンと革新的なアイディアを持った若いビートメーカーがクロスオーバーする素晴らしいレーベルで、今作はその最良の成果のひとつと言える。後半の失速感は否めないが、怒濤の勢いで駆け抜ける”Daylight”から”For Love I Come”までの流れは白眉の出来。Thundercatの超高速ベースソロはもちろん、オースティン・ペラルタ(key)のファンキーなプレイも素晴らしい。音楽的にはフュージョンやジャズに分類されるだろうが、それでも古さを全く感じさせないのはフライング・ロータスのシャープなプロダクションによるところが大きいだろう。その名の通り、黄金時代の到来を予感させる一枚。


2011年12月3日土曜日

Oneohtrix Point Never "Replica"



OPNことダニエル・ロパティンは、今もっとも注目を集めるニューヨークの実験音楽家のひとり。Ford & Lopatin という2人組のユニットで作品をリリースしたり、自身のレーベルSOFTWAREを運営したりと、その活動は多岐にわたる。

そんな彼が満を持して発表した新作『レプリカ』は、リリース後に各方面から高評価を獲得しており、彼の代表作として記憶されることは間違いなさそうだ。しかし、個人的には位置づけの難しい作品だ。

もっとも、彼のルーツである現代音楽家としての側面と、『リターナル』を支配していたドローン・アーティストとしての側面がバランス良く配合された作品であることは間違いない。アルバムのハイライト“レプリカ”では、繰り返されるピアノのフレーズに様々なノイズやYouTubeの適当な動画からサンプリングされたであろう短いループが重なり、唯一無二の緊張感を生み出している。シンセサイザー以外の楽器をほとんど使わずに曲に構成力を持たせることができるのは、現時点では彼くらいだろう。

とはいえ、そのバランスの良さが今作の最大の弱点でもある。あらゆる要素がオーケストラのようにコントロールされている『レプリカ』では、前作『リターナル』の美しいアンビエント・ドローンや、Ford & Lopatin『チャンネル・プレッシャー』の乱反射するビートの嵐は影を潜め、あくまで要素のひとつとして均質的に機能している。つまり、アンビエントに浸りたいのなら『リターナル』を、踊りたければ『チャンネル・プレッシャー』を聴いた方が効果的ということになる。『レプリカ』を通してOPNはドローンにも現代音楽にも接近できる希有な存在であることを証明したが、その組み合わせという点ではまだまだ冒険の余地がありそうだ。


2011年11月27日日曜日

Floating Points “Shadows”




ジェームス・ブレイク以降の「ダブステップ」(もはやこのジャンルは消え去ったと思うが)はダブというよりむしろ静寂がキーワードになっている。Mount Kimbieなどと並んでダブステップの代表格と謳われるFloating PointsことSamuel T Shepherdも例外ではなく、2007年の”Vacuum Boggie”で一躍有名になってからはミニマル路線にひた走ってきた印象がある。今年発売された7インチ・シングル”Danger”ではそのあまりの変化に戸惑いを隠せなかったが、この最新EP ”Shadows”ではFloating Pointsの最大の武器であるローズ・ピアノのセクシーな音色とグルーヴィなベースラインが「静寂」との結合に成功した、彼の最高傑作だと言うことができるだろう。

冒頭の”Myrtle Avenue”が全てを物語っている。控えめなシャッフル・リズムを背後にローズ・ピアノが主旋律を繰り返し、ベースがゆっくりと熱を加えていく。4分近くで最初の盛り上がりを迎えるが、その後一旦スローダウンし、また徐々に音量を上げていく。この辺りに”Vacuum Boogie”にはなかった、構成の美を感じ取ることができるだろう。

彼の引き算へのこだわりは揺らぐことなく、”Myrtle Avenue”以降もその姿勢は徹底して貫かれている。アンダーグラウンドだった「ダブステップ」がポピュラーミュージックと化し、派手なシンセと高速パーカッションで埋め尽くされるようになってしまった現在、彼のようなしたたかさを感じられる存在は貴重で、ブームと共に消え去って行くアーティストではないことは間違いない。


2011年11月26日土曜日

Nils Frahm "Felt"



今週最も聴いた作品は、ドイツの若きピアニスト/作曲家の最新作。特筆すべきは、全ての楽曲が彼が夜中に自宅で録音した即興演奏であること。彼曰く、「近所迷惑にならないように、弦の上に分厚いフェルトを敷き、かなりソフトなタッチで弾くことを意識した」そうだ。結果、まるでピアノの中から彼の演奏を聴いているような、不思議な緊張感と密度を持った傑作に仕上がった。

ピアノがミュートされているため、弦が動く音やニルズの息づかいなどの環境音が入りこみ、独特の世界観を作りあげる。楽曲もすばらしく、シガーロスを彷彿とさせる”Keep”や音量変化が見事な5分半のアンビエント”Less”などさまざまな表情を見せながらも、その変化はアルバム全体を1つの曲として捉えることができるほど自然だ。9分の大曲”More”でドラマチックに幕を閉じると、あなたはもう一度再生ボタンを押し、外界から完全に切り離された彼の美しい音世界に身を委ねてしまうだろう。