2011年12月28日水曜日

Best of 2011 #6 - Panda Bear “Tomboy”



個人的には彼の出世作となったPerson Pitchのみならず、Animal Collectiveの作品も含めて最も好きなアルバムとなった。それは、彼がサンプリングのコラージュから距離を置き、歌とギターを中心とした伝統的なソングライティングへとシフトことで、演奏者/作曲家としての魅力を際立たせることができたからに他ならない。そこにプロデュースを担当したソニック・ブームの淡いサイケデリアを塗せば、儚くも中毒性の高いループ・ミュージックの完成だ。 パンダ・ベアの天まで届きそうなほど透明な声と、地下室に籠って制作されたという本作を覆う不穏な空気感は不思議とマッチし、世の中の激動とは裏腹に平和な日常を過ごしていた僕の心にするりと入り込んだ。どの曲も良いが、ミニマル・ドローンとボーカルが祈りのように消えていく最終曲“Benfica”には完全にノックアウト。





2011年12月27日火曜日

Best of 2011 #7 - salyu×salyu “s(o)un(d)beams”


彼女が念頭に置いて小山田圭吾にプロデュースを依頼したと語る「クロッシング・ハーモニー」(詳しくは彼女のインタビューを参照して欲しい)というコンセプトが実現できたかどうかは別として、日本の女性ポップシンガーにしては近年稀に見る野心的な試みであったことは間違いない。完璧主義(だと思う)な彼女にとって「声」以外の殆どのパートを他者に委託するという決断は簡単ではなかったはずだが、坂本慎太郎氏の作詞を筆頭に多彩な才能が加わったことで、良い意味で力の抜けた作品となった。サリュの力強いハーモニーとコーネリアス節全開のミニマリズムに圧倒される前半も素晴らしいが、最後に収録された“続きを”の普遍的なポップネスは特別な響きを持って3.11後の僕の心を揺らした。

2011年12月25日日曜日

Best of 2011 #8 - Gang Gang Dance "Eye Contact"


ブルックリンのノイズ・シーンから出てきた彼らがここまでポップで構成力のあるアルバムを作れるとは、一体誰が予想しただろう。前作『セイント・ ディンフナ』('08)はクリエイティブな作品だったが統一感に欠け、実験音楽の域を超えることはなかった。それに比べて今作は即興的な要素を減らし、より綿密に練られたソングライティングへとシフト(”4AD Sessions”でのスタジオ・ライブを見る限り、キーボードやサンプラーを操るブライアン・デグロウの素晴らしいプレイを軸に、多くの曲はほぼ完璧に再現されていた)。特に、何重にも織り込まれたデグロウのシンセにタメの効いたドラムソロが加わって盛大に幕を開ける"glass jar"は11分という長さを感じさせないほどトリッピーで、間違いなく今年のベストトラックのひとつ。乱反射し続ける光の中で踊り続けよう。

2011年12月17日土曜日

Best of 2011 #9 - Oorutaichi “Cosmic Coco, Singing for a Billion Imu's Hearty Pi”



アメリカやヨーロッパのアーティストが宇宙をテーマにした音楽を作ると多くの場合それは神秘的で絶対的な存在として解釈されるが、日本のアーティストにとっては奇妙な生き物のような感覚なのではないだろうか・・・このユニークなアヴァンギャルド・ポップスを聴いていると、そんなことを考える。オオルタイチ3年ぶりのアルバムはグリッチ音やピッチの高いシンセを多用した前作に比べてエレクトロニカの要素を強め、作品として聴きやすくなった印象。それでも危なっかしさやテンションの高さは全く損なわれておらず、ギリギリのポップスとして見事な完成度とオリジナリティを誇っている。ボアダムスのEyヨとフライング・ロータスの盟友ダーデラスという、全く異なるシーンに属する2人がリミックスに参加しているということが、その事実を何より証明しているだろう。同じ方向を向いているアニマル・コレクティブの何倍も面白く、セクシーで、尖ってる。





Best of 2011 #10 - Thundercat "The Golden Age of Apocalypse"




フライング・ロータスが主宰する<ブレインフィーダー>からリリースされた、エリカ・バドゥのバックなどを務めるベーシストのソロ・デビューアルバム。<ブレインフィーダー>はプロフェッショナルなミュージシャンと革新的なアイディアを持った若いビートメーカーがクロスオーバーする素晴らしいレーベルで、今作はその最良の成果のひとつと言える。後半の失速感は否めないが、怒濤の勢いで駆け抜ける”Daylight”から”For Love I Come”までの流れは白眉の出来。Thundercatの超高速ベースソロはもちろん、オースティン・ペラルタ(key)のファンキーなプレイも素晴らしい。音楽的にはフュージョンやジャズに分類されるだろうが、それでも古さを全く感じさせないのはフライング・ロータスのシャープなプロダクションによるところが大きいだろう。その名の通り、黄金時代の到来を予感させる一枚。


2011年12月7日水曜日

James Blake "Love What Happened Here"




ジェイムス・ブレイク、12月11日発売の新EP『Love What Happened Here』からタイトル曲がリーク。これは久しぶりのヒット。4小節のフレーズを5分半繰り返しているのに、ここまで聴かせることができるアーティストはなかなかいないですよね。





2011年12月3日土曜日

Oneohtrix Point Never "Replica"



OPNことダニエル・ロパティンは、今もっとも注目を集めるニューヨークの実験音楽家のひとり。Ford & Lopatin という2人組のユニットで作品をリリースしたり、自身のレーベルSOFTWAREを運営したりと、その活動は多岐にわたる。

そんな彼が満を持して発表した新作『レプリカ』は、リリース後に各方面から高評価を獲得しており、彼の代表作として記憶されることは間違いなさそうだ。しかし、個人的には位置づけの難しい作品だ。

もっとも、彼のルーツである現代音楽家としての側面と、『リターナル』を支配していたドローン・アーティストとしての側面がバランス良く配合された作品であることは間違いない。アルバムのハイライト“レプリカ”では、繰り返されるピアノのフレーズに様々なノイズやYouTubeの適当な動画からサンプリングされたであろう短いループが重なり、唯一無二の緊張感を生み出している。シンセサイザー以外の楽器をほとんど使わずに曲に構成力を持たせることができるのは、現時点では彼くらいだろう。

とはいえ、そのバランスの良さが今作の最大の弱点でもある。あらゆる要素がオーケストラのようにコントロールされている『レプリカ』では、前作『リターナル』の美しいアンビエント・ドローンや、Ford & Lopatin『チャンネル・プレッシャー』の乱反射するビートの嵐は影を潜め、あくまで要素のひとつとして均質的に機能している。つまり、アンビエントに浸りたいのなら『リターナル』を、踊りたければ『チャンネル・プレッシャー』を聴いた方が効果的ということになる。『レプリカ』を通してOPNはドローンにも現代音楽にも接近できる希有な存在であることを証明したが、その組み合わせという点ではまだまだ冒険の余地がありそうだ。