2013年12月25日水曜日

Best of 2013 #7 - Oneohtrix Point Never “R Plus Seven”





世作『Returnal』のドローンは完全に姿を消し、前作『Replica』で(やや過剰に)展開されたチープなサンプル音のコラージュも姿を潜めた今作は、「音」や「テクスチャー」というよりも「ストーリー」に軸に置いた一種のサウンドトラックと位置づけることができるだろう。つまり、ダニエル・ロパティンのソングライターとしての魅力を発見することができるのだ。重厚なオルガンに合唱団の声を細切れにして乗せていく「Boring Angel」しかり、組曲のような展開を見せる「Still Life」しかり、それぞれの物語が存在し、自分自身のその中に当てはめることができる・・・この点では良いポップソングと同じように美しい。異なるのは「物語」が我々の抑圧された感情や欲望に焦点を当てること。夢で起きた出来事をゆっくり点検していくような、グロテスクな精神療法のような傑作。







Best of 2013 #8 - Blood Orange “Cupid Deluxe”







業的な成功に恵まれなかった天才が、ついに自分の居場所を見つけたという印象だ。前身のソロ・プロジェクトLightspeed Championでは巧妙な曲の構成や音作りがベールとなって彼の存在を包んでしまっていたが、Blood Orangeでは開き直った感があり全てが一貫してシンプル。テクニックや質に拘らない姿勢が彼の天性のセンスを際立たせ、あくまで自然に、彼の完成された世界観を形成している。Chairlift のボーカルCaroline Polachek やイギリスのラッパー、Skeptaといったゲストの起用も見事にハマっている。恋人たちはTシャツとジーパンを着てこの音楽を聴きながら、壊れかけたミラーボールの下で抱き合って踊るだろう。飾らないで生きる、弱い大人のためのソウル・ミュージック。






2013年12月23日月曜日

Best of 2013 #9 - Jon Hopkins “Immunity”





Jのパフォーマーとしての側面がますます強まった2013は、純粋に音楽として聴けるダンス・ミュージックを探すのに苦労した年だった。そんな中、ブライアン・イーノやコールドプレイの作品に参加したこともあるキーボ—ディスト/プロデューサーの職人芸のような作り込みが光るこの傑作は、あらゆる音楽メディアやアーティストの年間ベストリストに加えられている。ベースがとぐろのようにうねる “Open Eye Signal” “Collider” といったフロアアンセムからイーノによるフォー・テットのカバーのような “Sun Harmonics”、ピアノ・ソロからアンビエントへの美しい展開が白眉な “Abandon Window”など作風はバラエティに富みつつ、一貫してクール。四方八方に飛び散る音の粒子はぶつかり合って分裂を繰り返し、星のように広がっていく・・・それをひとつひとつ拾い上げるように、何度も聴いた。


Best of 2013 #10 - Blue Hawaii “Untogether”





年のベスト・ニューカマー。男女2人組によるエレクトロ・ユニットという肩書きは昨年ブレイクしたPurity Ringと同じだが、彼らのような即効性はなく、感情を抑制しながらじわじわとフロアを暖めていく。空間を非常に意識した作品になっており、余分な音が抜き取られたあとに残る統一された音色と囁くように歌うボーカルが心地よい。




Best Songs 2013


車やタクシーの中で音楽を聴くことが多かったこの1年。それゆえか、キャッチーでコンパクトな選曲になっています。今年は例年に増して女性アーティストの躍進が目立ったような。あとはヒップホップが国内外でかなり盛り上がり、傑作も多数あったようなのですが、全くついて行けずリストには入れておりません・・・MVPはガチガチのエレクトロにK−POPとチルウェイブをうまく取り込んだ中田ヤスタカ。アンテナの張り方はさすがだと思いました。


1. Basement Jaxx “What a Difference Your Love Makes”



2. Ciara “Body Party”



3. Sam Smith x Nile Rodgers x Disclosure x Jimmy Napes “Together”




4. Carly Rae Jepsen “Call me Maybe (Saint Pepsi Edit)”


5. Julia Holter “In The Green Wild”




6. Daft Punk “Get Lucky”




7. Kingdom “Bank Head (Feat.Kelela)”



8. Steve Arrington & Dam-Funk “Good Feeling”



9. Mount Kimbie “Made to Stray”



10. Egyptrixx “Alta Civilization”

2013年10月20日日曜日

今月の本棚

マクロ経済と証券会社




Oneohtrix Point Never - "R Plus Seven"


れまで彼の音楽の土台であったアンビエント/ドローンから大きく逸脱した問題作。それ故に評価が難しいが、斬新さという点では彼の過去作品のみならず、近年の実験音楽シーンにおいても頭ひとつ抜き出ている存在だと言えるだろう。そして何度も繰り返し聴くうちに、メロディの美しさが際立っている作品であることにも気付く。複数のインタビューを読む限り、その要因は制作手法の変化にある。これまで彼はシンセサイザーやサンプラーを使って音の実験を繰り返しながら曲を作っていたが、今作はまずピアノの前に座ってメロディとテキストを考え、パソコンでエディットするスタイルへと転換したそうだ。その結果、曲の構成は複雑に、尺はコンパクトになり、『Returnal』に代表される陶酔感は大きく後退した。

これまでの楽曲を覆っていた霧を取り払うことで、彼が持つシュールな世界観はより一層純度を増して聴き手に迫ってくる。それは時に恐怖を伴う体験だ。現代美術家のジョン・ラフマンが手がけたグロテスクな“Still Life”のミュージックビデオではこんなフレーズがこだまする——「細部に至るまではっきりと見えているが、その意味を捉えることができない」
ただ『R Plus Seven』について、言葉で表現できることは驚くほど少ない。それだけ純粋な音楽作品というわけだ。